大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。
ep.2 兄の友人というだけです
朝比奈悠。
今や、誰もが知っている国民的アイドル。
テレビに出れば黄色い歓声が上がるし、街を歩けばすぐに気づかれる。
そんな人が。
「美緒ー」
「……何」
「今日、一緒に帰ろ」
「嫌」
私の隣を、当たり前みたいについて歩いている。
……本当に、意味が分からない。
「なんで嫌なの?」
「疲れてるから」
「俺も疲れてる」
「じゃあ帰れば?」
「一人だとつまんない」
「知らないよ」
「冷たい」
「うるさい」
私は足を速める。
すると悠も、のんびりついてくる。
「待ってよー」
「待たない」
「美緒、歩くの速い」
「悠が遅いの」
「じゃあ手つなぐ?」
「なんで!?」
「早く歩けるよ」
「絶対つながない!」
「そっか」
……。
本当に、こいつは。
昔から変わらない。
そもそも。
私と朝比奈悠は、どういう関係なのか。
よく聞かれる。
「朝比奈くんと仲良いよね」
「付き合ってるの?」
「幼なじみ?」
そのたびに、私は同じ答えを返す。
「兄の友人です」
それだけ。
私の兄――
瀬名玲央。
兄と悠は、昔からの親友だった。
そして私たち三人は、同じ芸能事務所の研究生だった。
毎日のようにレッスンを受けて。
歌って。
踊って。
デビューを夢見ていた。
私は兄の後ろについて。
悠は兄とくだらないことで笑って。
気づけば、三人でいるのが当たり前になっていた。
「美緒、今日のレッスンどうだった?」
「普通」
「俺、今日めっちゃ褒められた」
「はいはい」
「なんで興味なさそうなの?」
「いつものことでしょ」
「ひどいなあ」
そんな私たちを見て、兄はいつも笑っていた。
「お前ら、本当に仲いいよな」
「「よくない!」」
私と悠の声が重なる。
「ほら」
兄が笑う。
「そういうところ」
「どこが!?」
「仲良いじゃん」
「お兄ちゃんまで!」
あの頃は。
何もかもが当たり前だった。
兄も。
悠も。
私も。
三人で同じ場所を目指している。
そう思っていた。
でも――
私たちの未来は、同じじゃなかった。
ある日。
兄と悠に、デビューの話が出た。
二人で。
同じグループで。
「玲央、悠。二人とも頑張れよ」
スタッフさんにそう言われて。
私は飛び跳ねるくらい嬉しかった。
「すごいじゃん、お兄ちゃん!」
「悠も!」
「うん」
悠は笑っていた。
兄も笑っていた。
その頃の私は、本当に何も知らなかった。
二人が一緒にレッスンする姿を見るのが好きだった。
レコーディングに行く二人を見送るのも好きだった。
「お兄ちゃん、デビューしたら絶対CD買うからね!」
「美緒が買わなくても売れるよ」
「何それ!」
「冗談」
兄が笑う。
悠も隣で笑っている。
――それが、ずっと続くと思っていた。
なのに。
ある日を境に。
二人のデビューの話は、突然なくなった。
私は理由を知らなかった。
ただ、
「デビューは白紙になりました」
そう聞いただけ。
そして、その少し後。
兄だけに、別の話が来た。
事務所のエースグループ。
そのグループへの追加メンバーとして、兄が選ばれた。
「……お兄ちゃんが?」
私は驚いた。
「うん」
兄は、笑っていた。
でも。
その隣にいた悠は――
何も言わなかった。
「悠?」
「……ん?」
「どうしたの?」
「別に」
そう言って、いつものように笑った。
だけど。
その笑顔が。
なぜか少しだけ、寂しそうに見えた。
――あの日のことを。
私は今でも、よく覚えている。
そして。
現在。
「美緒?」
「……何?」
「またぼーっとしてた」
「してない」
「してたよ」
「してないって」
悠が私の顔を覗き込む。
「玲央のこと考えてた?」
「……」
私は答えなかった。
悠も、それ以上は聞かなかった。
ただ、少しだけ目を逸らして。
「……お腹減った」
「話そらした?」
「そらしてない」
「絶対そらした」
「じゃあガム食べる?」
「いらない!」
「まだ聞いてないのに」
「どうせあのガムでしょ!」
「正解」
「……もう!」
私は歩き出す。
その後ろを、悠が笑いながらついてくる。
昔と同じ。
何も変わらない。
――そう思っていた。
でも。
私にはまだ分からない。
あの日。
二人のデビューが白紙になった本当の理由も。
そして。
兄と悠の間に、何があったのかも。
今や、誰もが知っている国民的アイドル。
テレビに出れば黄色い歓声が上がるし、街を歩けばすぐに気づかれる。
そんな人が。
「美緒ー」
「……何」
「今日、一緒に帰ろ」
「嫌」
私の隣を、当たり前みたいについて歩いている。
……本当に、意味が分からない。
「なんで嫌なの?」
「疲れてるから」
「俺も疲れてる」
「じゃあ帰れば?」
「一人だとつまんない」
「知らないよ」
「冷たい」
「うるさい」
私は足を速める。
すると悠も、のんびりついてくる。
「待ってよー」
「待たない」
「美緒、歩くの速い」
「悠が遅いの」
「じゃあ手つなぐ?」
「なんで!?」
「早く歩けるよ」
「絶対つながない!」
「そっか」
……。
本当に、こいつは。
昔から変わらない。
そもそも。
私と朝比奈悠は、どういう関係なのか。
よく聞かれる。
「朝比奈くんと仲良いよね」
「付き合ってるの?」
「幼なじみ?」
そのたびに、私は同じ答えを返す。
「兄の友人です」
それだけ。
私の兄――
瀬名玲央。
兄と悠は、昔からの親友だった。
そして私たち三人は、同じ芸能事務所の研究生だった。
毎日のようにレッスンを受けて。
歌って。
踊って。
デビューを夢見ていた。
私は兄の後ろについて。
悠は兄とくだらないことで笑って。
気づけば、三人でいるのが当たり前になっていた。
「美緒、今日のレッスンどうだった?」
「普通」
「俺、今日めっちゃ褒められた」
「はいはい」
「なんで興味なさそうなの?」
「いつものことでしょ」
「ひどいなあ」
そんな私たちを見て、兄はいつも笑っていた。
「お前ら、本当に仲いいよな」
「「よくない!」」
私と悠の声が重なる。
「ほら」
兄が笑う。
「そういうところ」
「どこが!?」
「仲良いじゃん」
「お兄ちゃんまで!」
あの頃は。
何もかもが当たり前だった。
兄も。
悠も。
私も。
三人で同じ場所を目指している。
そう思っていた。
でも――
私たちの未来は、同じじゃなかった。
ある日。
兄と悠に、デビューの話が出た。
二人で。
同じグループで。
「玲央、悠。二人とも頑張れよ」
スタッフさんにそう言われて。
私は飛び跳ねるくらい嬉しかった。
「すごいじゃん、お兄ちゃん!」
「悠も!」
「うん」
悠は笑っていた。
兄も笑っていた。
その頃の私は、本当に何も知らなかった。
二人が一緒にレッスンする姿を見るのが好きだった。
レコーディングに行く二人を見送るのも好きだった。
「お兄ちゃん、デビューしたら絶対CD買うからね!」
「美緒が買わなくても売れるよ」
「何それ!」
「冗談」
兄が笑う。
悠も隣で笑っている。
――それが、ずっと続くと思っていた。
なのに。
ある日を境に。
二人のデビューの話は、突然なくなった。
私は理由を知らなかった。
ただ、
「デビューは白紙になりました」
そう聞いただけ。
そして、その少し後。
兄だけに、別の話が来た。
事務所のエースグループ。
そのグループへの追加メンバーとして、兄が選ばれた。
「……お兄ちゃんが?」
私は驚いた。
「うん」
兄は、笑っていた。
でも。
その隣にいた悠は――
何も言わなかった。
「悠?」
「……ん?」
「どうしたの?」
「別に」
そう言って、いつものように笑った。
だけど。
その笑顔が。
なぜか少しだけ、寂しそうに見えた。
――あの日のことを。
私は今でも、よく覚えている。
そして。
現在。
「美緒?」
「……何?」
「またぼーっとしてた」
「してない」
「してたよ」
「してないって」
悠が私の顔を覗き込む。
「玲央のこと考えてた?」
「……」
私は答えなかった。
悠も、それ以上は聞かなかった。
ただ、少しだけ目を逸らして。
「……お腹減った」
「話そらした?」
「そらしてない」
「絶対そらした」
「じゃあガム食べる?」
「いらない!」
「まだ聞いてないのに」
「どうせあのガムでしょ!」
「正解」
「……もう!」
私は歩き出す。
その後ろを、悠が笑いながらついてくる。
昔と同じ。
何も変わらない。
――そう思っていた。
でも。
私にはまだ分からない。
あの日。
二人のデビューが白紙になった本当の理由も。
そして。
兄と悠の間に、何があったのかも。