大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。
ep.4 私たちは、ずっと三人だった
「美緒ー! こっち!」
「……」
スタジオのドアを開けた瞬間。
一番聞きたくない声が聞こえた。
「……何してんの?」
私が見た先には、床に寝転がっている朝比奈悠。
「休憩」
「まだレッスン始まってないよ」
「だから休憩」
「意味分かんない」
「美緒も一緒に休憩する?」
「しない」
私はそのまま自分の荷物を置いた。
すると悠が、のそのそ起き上がる。
「今日、玲央は?」
「知らない」
「そっか」
「……何?」
「いや、別に」
悠はスマホをいじり始めた。
私は鏡の前で髪を整える。
なんとなく。
その空気が懐かしかった。
研究生だった頃も。
こんな感じだった。
私が先に来て。
悠が後から来て。
兄が最後に来る。
「おはよう」
「遅い!」
「ごめんごめん」
「玲央、また寝坊?」
「ちょっとだけ」
「ちょっとじゃない!」
そんな毎日。
私たちは、いつも三人だった。
レッスンも。
ご飯も。
帰り道も。
たまにスタッフさんに怒られるときだって、三人一緒。
「美緒、今日振り入れできた?」
「できた」
「俺できてない」
「ちゃんと練習しなよ」
「美緒教えて」
「嫌」
「なんで?」
「悠だから」
「ひどい」
兄が横で笑う。
「じゃあ俺が教えるよ」
「玲央やさしー」
「お前は甘やかしすぎ」
「美緒、怖い」
「誰が怖いのよ!」
そんなくだらない会話ばかり。
でも。
私は、それが好きだった。
――三人でいる時間が。
「美緒」
「ん?」
悠の声で、私は現在に戻った。
「何?」
「これ」
差し出されたのは、ペットボトル。
「……何?」
「水」
「見れば分かる」
「飲む?」
「飲む」
「はい」
「……ありがと」
「どういたしまして」
悠は何でもないように笑った。
こういうところも。
昔から変わらない。
私が喉が渇いていると、勝手に飲み物を渡してくる。
私が疲れていると、何も言わずに荷物を持ってくれる。
私が落ち込んでいると、くだらないことを言って笑わせようとする。
……なのに。
本人は、たぶん何も考えていない。
「ねえ」
「ん?」
「悠ってさ」
「うん」
「昔から私のこと、子ども扱いしてない?」
「してる?」
「してる」
「だって美緒、昔から変わらないじゃん」
「どこが?」
「怒るところ」
「……は?」
「すぐ怒る」
「誰のせいよ!」
「ほら」
悠が笑った。
「そういうところ」
「……もう知らない」
私はそっぽを向いた。
そのとき。
スタジオのドアが開いた。
「おはよう」
「あ、お兄ちゃん!」
兄だった。
玲央はいつものように笑いながら入ってくる。
「二人とも早いな」
「悠が早かっただけ」
「俺はいつも早いよ」
「嘘つけ」
「本当だって」
兄が笑う。
「今日も仲いいな」
「「仲良くない!」」
また声が重なった。
兄は楽しそうに笑った。
「はいはい」
その笑顔を見ていると。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
この頃の私は。
兄がいて。
悠がいて。
私がいる。
それが当たり前だと思っていた。
三人で同じ場所を目指して。
いつか、同じステージに立って。
三人で笑っていられる。
そんな未来を。
何の疑いもなく信じていた。
「美緒?」
「……ん?」
「ぼーっとしてる」
悠が私の顔を覗き込む。
「また昔のこと考えてた?」
「うん」
「何を?」
「……三人でいた頃」
悠の表情が、一瞬だけ止まった。
「……そっか」
「何?」
「いや」
いつものように笑う。
「懐かしいなって思って」
「でしょ?」
私は笑った。
「また三人でご飯行きたいな」
「行こうよ」
「玲央も誘って」
「うん」
悠はそう答えた。
でも。
その声は。
ほんの少しだけ、小さかった。
私は気づかなかった。
その頃の私は。
まだ何も知らなかったから。
三人で見ていた未来が、少しずつ違う方向へ動き始めていたことも。
「……」
スタジオのドアを開けた瞬間。
一番聞きたくない声が聞こえた。
「……何してんの?」
私が見た先には、床に寝転がっている朝比奈悠。
「休憩」
「まだレッスン始まってないよ」
「だから休憩」
「意味分かんない」
「美緒も一緒に休憩する?」
「しない」
私はそのまま自分の荷物を置いた。
すると悠が、のそのそ起き上がる。
「今日、玲央は?」
「知らない」
「そっか」
「……何?」
「いや、別に」
悠はスマホをいじり始めた。
私は鏡の前で髪を整える。
なんとなく。
その空気が懐かしかった。
研究生だった頃も。
こんな感じだった。
私が先に来て。
悠が後から来て。
兄が最後に来る。
「おはよう」
「遅い!」
「ごめんごめん」
「玲央、また寝坊?」
「ちょっとだけ」
「ちょっとじゃない!」
そんな毎日。
私たちは、いつも三人だった。
レッスンも。
ご飯も。
帰り道も。
たまにスタッフさんに怒られるときだって、三人一緒。
「美緒、今日振り入れできた?」
「できた」
「俺できてない」
「ちゃんと練習しなよ」
「美緒教えて」
「嫌」
「なんで?」
「悠だから」
「ひどい」
兄が横で笑う。
「じゃあ俺が教えるよ」
「玲央やさしー」
「お前は甘やかしすぎ」
「美緒、怖い」
「誰が怖いのよ!」
そんなくだらない会話ばかり。
でも。
私は、それが好きだった。
――三人でいる時間が。
「美緒」
「ん?」
悠の声で、私は現在に戻った。
「何?」
「これ」
差し出されたのは、ペットボトル。
「……何?」
「水」
「見れば分かる」
「飲む?」
「飲む」
「はい」
「……ありがと」
「どういたしまして」
悠は何でもないように笑った。
こういうところも。
昔から変わらない。
私が喉が渇いていると、勝手に飲み物を渡してくる。
私が疲れていると、何も言わずに荷物を持ってくれる。
私が落ち込んでいると、くだらないことを言って笑わせようとする。
……なのに。
本人は、たぶん何も考えていない。
「ねえ」
「ん?」
「悠ってさ」
「うん」
「昔から私のこと、子ども扱いしてない?」
「してる?」
「してる」
「だって美緒、昔から変わらないじゃん」
「どこが?」
「怒るところ」
「……は?」
「すぐ怒る」
「誰のせいよ!」
「ほら」
悠が笑った。
「そういうところ」
「……もう知らない」
私はそっぽを向いた。
そのとき。
スタジオのドアが開いた。
「おはよう」
「あ、お兄ちゃん!」
兄だった。
玲央はいつものように笑いながら入ってくる。
「二人とも早いな」
「悠が早かっただけ」
「俺はいつも早いよ」
「嘘つけ」
「本当だって」
兄が笑う。
「今日も仲いいな」
「「仲良くない!」」
また声が重なった。
兄は楽しそうに笑った。
「はいはい」
その笑顔を見ていると。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
この頃の私は。
兄がいて。
悠がいて。
私がいる。
それが当たり前だと思っていた。
三人で同じ場所を目指して。
いつか、同じステージに立って。
三人で笑っていられる。
そんな未来を。
何の疑いもなく信じていた。
「美緒?」
「……ん?」
「ぼーっとしてる」
悠が私の顔を覗き込む。
「また昔のこと考えてた?」
「うん」
「何を?」
「……三人でいた頃」
悠の表情が、一瞬だけ止まった。
「……そっか」
「何?」
「いや」
いつものように笑う。
「懐かしいなって思って」
「でしょ?」
私は笑った。
「また三人でご飯行きたいな」
「行こうよ」
「玲央も誘って」
「うん」
悠はそう答えた。
でも。
その声は。
ほんの少しだけ、小さかった。
私は気づかなかった。
その頃の私は。
まだ何も知らなかったから。
三人で見ていた未来が、少しずつ違う方向へ動き始めていたことも。