大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。
ep.5 お兄ちゃんと悠は、ずっと一緒だと思っていた
「玲央、今日レコーディングなんだって」
「うん」
「悠も?」
「もちろん」
私は二人の顔を見比べた。
「……いいなあ」
「何が?」
兄が首を傾げる。
「二人とも、デビューするんでしょ?」
「まだ決まったわけじゃないよ」
悠がそう言った。
「でも、ほぼ決まりなんでしょ?」
「まあ……」
「すごいじゃん!」
私は嬉しくて、机をバンッと叩いた。
「二人とも絶対売れるよ!」
「美緒、うるさい」
「だって!」
「まだ何も決まってないから」
「でもレコーディングまでしたんでしょ?」
「うん」
悠が頷く。
「この前、玲央と一緒に録った」
「聴きたい!」
「ダメ」
「なんで!」
「まだ秘密」
「ケチ!」
「完成したら聴かせるよ」
「絶対だからね!」
「うん」
悠が笑う。
その隣で、兄も笑っていた。
私はその光景を見ながら思った。
――きっと、この二人は一緒にデビューする。
だって。
二人でレッスンして。
二人でレコーディングして。
事務所の人たちも、二人のことを期待している。
何より。
兄と悠は、ずっと一緒だったから。
「デビューしたら、どんなグループになるんだろうね」
「さあ」
「悠は絶対人気出るよ」
「美緒もそう思う?」
「思う」
「玲央は?」
「お兄ちゃんは……」
私は兄を見る。
「……人気出ると思う」
「なんでちょっと間があった?」
「別に!」
「ひどい妹だな」
兄が笑う。
「でも、美緒」
「何?」
「悠のこと、ちゃんと応援してあげてよ」
「もちろん」
「玲央もね」
「俺も?」
「当たり前じゃん」
私は二人に向かって笑った。
「二人とも、絶対デビューしてよ」
「うん」
「約束ね」
「約束」
悠が小指を差し出した。
「……子ども?」
「いいじゃん」
「しょうがないなあ」
私は小指を絡める。
兄も呆れながら、その上から自分の小指を重ねた。
三人の小指が重なる。
「絶対、三人で頑張ろうね」
「……うん」
そのとき。
私は、本当にそう思っていた。
この先も。
三人で笑って。
三人で夢を追いかけて。
いつか三人で、大きなステージに立つ。
そんな未来が、当たり前にやってくると思っていた。
――だけど。
数日後。
事務所から突然、呼び出された。
「……え?」
兄が、固まっている。
隣にいる悠も、何も言わない。
「デビューの話ですが」
スタッフさんが、静かに口を開いた。
「一度、白紙に戻ります」
「…………」
空気が止まった。
私は意味が分からなかった。
「白紙って……?」
思わず聞いた。
スタッフさんは少し困ったように笑う。
「いろいろと事情がありまして」
「でも、レコーディングも……」
「申し訳ありません」
それ以上は、何も教えてもらえなかった。
私は兄を見る。
「お兄ちゃん……」
兄は黙っていた。
そして。
悠を見る。
悠も、黙っていた。
いつもなら何か言うのに。
冗談を言って笑わせてくれるのに。
このときだけは。
何も言わなかった。
その日の帰り道。
三人で歩いているのに。
誰も、ほとんど話さなかった。
やがて。
悠がぽつりと言った。
「……また頑張ろう」
兄が顔を上げる。
「うん」
「まだ終わったわけじゃないし」
「……そうだな」
二人が笑う。
でも。
その笑顔は。
いつもの笑顔とは違っていた。
私はまだ知らなかった。
この日を境に。
兄と悠の未来が、大きく変わっていくことを。
そして。
この数日後。
兄のもとに――
ある一つの話が届くことになる。