大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。
ep.9 悠のデビューが決まった
翌日。
私は朝から落ち着かなかった。
昨日、事務所に呼ばれた悠。
何の話だったのか、まだ聞いていない。
「……遅い」
レッスン室の時計を見る。
いつもなら、とっくに来ている時間。
「何かあったのかな……」
すると。
ガチャ。
「おはよー」
「遅い!」
「え?」
入ってきた悠は、いつも通りだった。
眠そうな顔。
少し乱れた髪。
そして――
なぜか、ものすごく機嫌がいい。
「……何?」
「何が?」
「なんか嬉しそう」
「そう?」
「そう」
「分かる?」
「分かるよ」
「そっか」
悠はニヤッと笑った。
「じゃあ、当ててみて」
「……」
「俺、昨日事務所で何言われたでしょう」
私は腕を組んだ。
「新しい仕事?」
「違う」
「レッスン増える」
「違う」
「怒られた」
「なんでそうなるの?」
「じゃあ……」
私は少し考えた。
そして。
「デビュー?」
「正解」
「……え?」
一瞬。
頭が追いつかなかった。
「え、嘘」
「ほんと」
「本当に!?」
「うん」
「悠、デビューするの!?」
「する」
「いつ!?」
「もう決まった」
「誰と!?」
「グループ」
「知ってる!」
思わず悠の腕を掴む。
「すごいじゃん!」
「うん」
「やったじゃん!」
「うん」
「お兄ちゃんにも連絡しないと!」
スマホを取り出そうとすると。
悠が私の手を止めた。
「待って」
「何?」
「俺から連絡する」
「……そっか」
悠はスマホを取り出した。
画面を見つめる。
少しだけ迷ってから。
兄にメッセージを送った。
『俺もデビュー決まった』
既読はすぐについた。
そして。
『おめでとう』
短いメッセージ。
そのあと。
『待ってた』
悠の顔が、少しだけ緩んだ。
「……よかった」
「何が?」
「玲央も喜んでくれた」
「当たり前じゃん」
「うん」
悠はスマホを握りしめる。
「これで、やっと追いつける」
「……?」
「何?」
「今、何か言った?」
「言ってない」
「言ったよ」
「気のせい」
「絶対言った」
「美緒」
「何?」
「俺のこと、応援してくれる?」
「……」
私は笑った。
「するに決まってるじゃん」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、一番最初に応援して」
「どういう意味?」
「俺がデビューする瞬間」
「もちろん」
「約束ね」
「約束」
小指を差し出される。
「また?」
「また」
「子どもじゃん」
「いいから」
私は笑いながら、小指を絡めた。
「絶対だよ」
「うん」
――このとき。
私はただ、嬉しかった。
兄に続いて。
今度は悠も夢を叶える。
これで二人とも、同じ世界に行ける。
またいつか。
三人で笑える。
そう思っていた。
だけど。
それから数ヶ月。
私の目の前には――
テレビの中で輝く悠がいた。
兄とは違うグループ。
でも。
兄と同じくらい、いや。
それ以上の勢いで人気になっていく。
そして私は、まだ知らない。
この先。
悠のグループが――
「顔面偏差値が高すぎるアイドル」として、社会現象になることを。
そして。
そんな悠を見ているうちに。
私の中に。
今まで感じたことのない感情が芽生え始めることを。