銀河の雫
クールで知的な所長。
あれほど時間にも正確で身なりに拘っている。
遅れまいと必死でどんなにか慌ててあのセーターを着たのかと考えた。
「ふふっ……ごめんなさい、想像したらおかしくて」
「怒ってないんですか?」
「まさか」
「なんで?」
「だって、所長……お兄さん、こんな可愛らしい妹さんがいらして、心の拠り所だったんだろうなって」
「月浦さん……」
「つらいだけの幼少時代じゃなくて良かったって」
「それと、今回のこと、本当にありがとうございました」
女性は、また深く頭を下げた。
「あなたが兄に知らせてくれなかったら、私も弟もずっと知らないままでした」
ほほえんで、首を小さく横に振る。
「帰省もろくにしてなくて、母の異変に気が付いてあげることもできなかった」
「ううん、お節介かなって思ったんですけど」
女性は、泣きながら首を横に振る。
「私ね、若い頃に、両親を亡くしたから……後悔して欲しくなくて……それだけのことです」
「本当にありがとうございました」
「……それじゃ」
再び背を向けようとした。
「待って、月浦さん」
再び、呼び止められて振り返った。
「母のところに寄って行かないんですか?」
「私はもう……」
「仙台に帰っちゃうんですか?」
「はい。そのつもりです」
「兄は、明日の午前中には着きます。会わないんですか」
「あなたのお兄さんとは、もう、話は終わってますから」
「兄はそう思ってないと思います」
私はほほえんで、うなずいた。
「ありがとう。あなたも優しいのね。けど、今はお母様のことだけ考えて欲しいから」
「お兄ちゃんが」
急に腕を掴まれ、引き寄せられる。
「えっ」
「お兄ちゃんが幸せになるって、お兄ちゃんが幸せだって、お母さんに見せてあげて欲しいんです。だから明日……必ず来てください」
「でも……」
必死な表情に心が揺れた。
「……考えてみます。それじゃ」
会釈して歩き出す。
振り返ると、いつまでも私に向かって頭を下げているのが見えた。