銀河の雫



『俺のこと、覚えてないの』

私、所長に前も会ったことがあるの?

IDカードを外し、鍵をロッカーにねじ込む。

ブラインドの隙間から外をのぞく。

外は夜の闇に包まれ、ビルの明かりがきらめいていた。

やばい、こんなに残業をしてしまった。


急ぎ足でエントランスを抜ける。

発車寸前の地下鉄になんとか滑り込んだ。


LINEをチェックする。

『もう帰った』

大也か。

「今、地下鉄。これから帰る」


『お疲れ様。初日から残業で大変だったね』

そうだ、薫さん、LINEするって言ってたな。

「お疲れ様、今終わったとこ」

すぐに既読がつく。

『驚かないで冷静に読んで』

なにそれ。

絶対に驚く内容に決まってる。

『うちらがいつもお昼休みに休憩していた席あんじゃん』

「うん」

『あそこの真後ろが所長の指定席になってたみたい』

『毎日、座ってたらしいよ』


「それってどういうこと?」

『うちらの会話、聞かれてたんじゃないかと思って』

サーッと、血の気が引くのが分かった。

『俺のこと、覚えてないの』

ちょ、ちょっと待って!?

もしかして、そのこと?

『お子さん待ってるでしょ? 週末ゆっくり休んで下さい』

今日が初対面で事務的な会話しかしてない。

なのに、どうして子どもがいるって分かってた?

派遣元は、派遣先に家族構成なんて知らせてないはず。

全部、聞こえてたってこと?
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