銀河の雫
「あは、……いいですね、乗っちゃいますか」
あれ、なんで断らなかったんだ、私。
早く切り上げて帰りたかったはずなのに……
夕暮れ迫る中、男性は乗舟券を買って、一枚を私に渡した。
「最終便を出してくれるそうです」
「そうですか。あっ、お金……」
慌ててバッグをまさぐる。
「大丈夫です、僕が誘ったんで」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
桟橋から舟に降りる。
「段差があるから気を付けて」
男性が振り返りながら言葉をかけてくれた。
夕暮れ迫る晩秋の猊鼻渓。
他に乗客は誰もいない。
川底を突く竿の音とともに、ゆっくりと舟が動き出した。
弱い夕日がかすかに舟を照らし出す。
墨汁で描いたような色のない岸壁。
「何回も来たことあったけど、こんな時間帯は初めてです」
「僕もです」
「なんか、すごく幻想的ですね」
「……はい」
静寂の中、川底にぶつかる竿のカツンという音だけが、時折、聞こえる。