同期のエリート警察官に、偽装彼女を頼まれました
帰宅するとすぐ、夏樹はキッチンに立つ。
食べることが好きだからか、作ることも好きだった。
……今日はなにを食べようかな。
冷蔵庫を開けて、食材を見る。休日に一週間分を買ってくるため何でも揃っていた。
タコが目に入った。
……あ、この前日向君と食べたマリネを再現してみよう。
イタリアンバーの前菜を思い出した。
……それに合う、オムレツも作ろう。
ひき肉と玉ねぎ、卵を取り出す。
ふいに、いつかの会話が蘇った。
『オムレツはプレーンかな』
『私はひき肉を包んだオムレツも好きよ』
『俺も嫌いじゃないんだよ。でもひき肉が主役になってる気がして』
『日向君は卵を大事にしたいのね』
夏樹は、ふふふと頬を揺らした。
そうだ、と閃く。
今日は卵が主役になるひき肉入りのオムレツに挑戦してみよう――と。
美味しく出来たら、教えてあげるのだ。
……これなら卵がメインでしょ、って。
鼻歌まじりでワンプレートを作り上げた。
マリネ、キャロットラペ、コールスロー、オムレツ。
……あれっ?
テーブルに出来上がった料理を置き、夏樹はようやく気づいた。
プレートの中をじいっと見つめる。
気がつけば、日向が“特に好きなんだよね”と話してくれた副菜ばかりを作っていた。
……意味わかんない。
夏樹は首を捻る。
……っていか、なんで私、日向君のことばかり考えてるの?
そういえばもう、光琉のことを思い出してない……。
この部屋にいるだけで、溢れてくる光琉との記憶に苦しめられた。
自分の部屋なのに心が休まらなかった。
だから帰宅早々、缶ビールに手を伸ばした。
スマホで観た映画も数えきれない。どれも内容は覚えていないけれど。
夏樹は今、はっきりと自覚した。
自分の頭の中には日向がいることを。
……いったい、いつから……。
夏樹は両手で頬を覆った。
顔が熱かった。
ずっと『同期』として接してきた。
境目が分からない。
小さく震え出した指でスマホを手繰り寄せた。
日向とはこれまで何度かメールのやりとりをした。
だが数える程度だ。
用事があるときだけ――それ以外でメールをするのはルール違反のような気がしていた。
日向とのメッセージ履歴を遡った。
数回スクロールしただけで、一番古いメッセージに辿り着いた。
日曜日の確認。
誤解を受けないための相談。
また日曜日の確認。
古民家へ行く際の、待ち合わせ時間の伝達。
どれも3ターンほどのやり取りで終わっている。
……。
この流れで、どんなメールを送れと。
さっきまで騒いでいた心が静かになった。
……いきなり雑談なんて送ったら、迷惑なんじゃないかな。
「……」
……っていうか、私、日向君が好きなの?
せっかく作った料理が、目の前でどんどん冷めていった。