愛してるの期限が切れる前に
「はーちゃん。花?」

 たいがい、こどもが大人しいときは悪いことをしているものだと経験から学んだ百花が、部屋を覗くと――。

「え、猫? なんで?」

 どこから入ってきたのか、長毛の猫がお座りの恰好で花と向かい合っていた。

「は、花ちゃん? どうしたの、その子? えっ、どこから入ってきたの!?」
「ままぁ、あっちゃ!」
「え、えぇ――」

 言われれば絵本の子猫と似ていなくもないが、そういう問題ではない。
 百花は猫が入ってきそうな場所を探して部屋を見渡すと、十センチほど網戸が開いていた。

「――っ!!」

 その光景にゾッとして、慌てて窓ごと閉めた。
(あ、危なかった……っ!)
 いくらベランダがあるとはいえ、いつどうやって落ちてしまうかまでは想像つかない。ベランダには家庭菜園のプランターもある。あそこに脚をかけてしまえば、ベランダの手すりにだって手が届くし、ひっくり返ってコンクリートに頭を打ってしまう可能性もあるのだ。
(ちゃんと見てないと)
 あわや事故ではすまないところだった。
 網戸はどうやって開いたのだろう。
 あの猫が開けたのかもしれないし、花が開けたのかもしれない。どちらにしろ、危険な状況であるのは間違いなかった。
 冷や水を浴びせられたような恐怖に背中を震わせながら、百花は改めて猫を見た。
 見た目からして家猫だろう。毛並みのよさといい、人慣れしている雰囲気からも、野良とは思えない。
 黒猫だが、首周りだけマフラーを巻いているみたいにグレーだ。

「君はどこの子?」

 近づいても、逃げる素振りはない。やはり、人に慣れているのだ。

「にゃんた、あっちゃね」
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