愛してるの期限が切れる前に
「え? あぁ――言われてみると」

 絵本の子猫に似ている。
 猫派後ろ脚で頭を掻くと、のんびりと欠伸をした。
(なんだか、ふてぶてしい子ね)
 他人の家に上がりこんで、我が物顔で寛ぐ姿は、昔の伶桜を彷彿とさせる。彼も、初日から涼しい顔で水島家のソファに座っていた。

「猫さん、お家にお帰り。ここはペット禁止なんだ」

 猫派ゆらり、ゆらりと長い尻尾を揺らしていたが、まるで百花の言葉を理解しているみたいに窓の縁まで行くと、「開けろ」と前脚で窓を掻いた。

「はいはい、それじゃあね」
「あっちゃ、ばいばぁい」

 ベランダの窓を開けてやれば、猫はするりと外へ出ていった。軽々とベランダの手すりに飛び乗った猫は、一度だけこちらを振り返り「ナァ」と鳴いた。
 それが「また来る」と言ってるように聞こえたのは、気のせいだろうか。
 一度きりの訪問だと思っていたが、猫のあっちゃは度々百花たちのアパートに現れるようになった。
 花は「あっちゃ」と呼び、猫の来訪を心待ちにしている。
 撫でたがる花に、いつ引っかかれやしないかとひやひやしたが、あっちゃは大人しく受け入れてくれていた。花がお昼寝をしているときは、彼女も一緒になって寝ている。あっちゃの性別が雌だとわかったのは、花の隣でへそ天で寝ていたからだ。
 窓を開けていたとき、隣の部屋からもあっちゃに声をかける住人の声を聞いた。
 おそらく、このアパートが彼女の縄張りの中なのだろう。いろんなところを渡り歩いては食べ物をもらっているに違いない。
 根無し草なところも、絵本の子猫そっくりだった。



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