愛してるの期限が切れる前に
【第二章 玲桜との再会】
 その日は、朝からどんよりと重たそうな灰色の雲が空を覆っていた。
 朝まで振っていた雨で濡れた車道の上を、百花の自転車が水を切って走っていった。
(あぁ、やっぱり徒歩にするべきだったかな)
 出るまで迷っていたが、時間と体力の効率を思えば、自転車での登園は捨てきれなかった。
 梅雨特有の湿った空気が、体に纏わり付いてくる。
 子どもを産んでから、慢性的な寝不足に加え日頃の疲れが溜まった身体には、このじっとしと湿度は厳しい。生理前であることも、この状況に輪をかけて疲弊させた。
 ――けれど、それがなんだ。
 今は、花がいる。
 体調の悪さくらいで泣き言なんて言っていられなかった。
 百花は倦怠感を振り払うように、務めて明るい声でいった。

「はーちゃん、今日は冷たいおうどんにしようか。おうどん、好きだもんね」
「ちゅきー」

 後ろの席のチャイルドシートから、花の元気な声がした。

「ママも好き――。でも、はーちゃんが一番好き」
「きゃ~っ」

 信号機のない横断歩道で一時停止して、楽しそうな声に鼓舞され、道を渡り始めたときだ。

「止まれっ!!」

 突如、後ろから男の怒声がした。
 とっさにブレーキを握るも、濡れた舗装にタイヤが滑りバランスが崩れてしまった。身体が傾いだ方の脚で支えるが、花を乗せている分の重量が支えきれない。

「あ……っ」

 倒れる――。
 そう思ったとき、百花の頭にあったのはチャイルドシートにいる花の安全だけだった。
 反射的に片帆の手をサドルから手を離して花に伸ばしたのは、本能だった。自分のどこにそんな俊敏さがあったのかと思うくらい、花を守ることしかなかった。
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