愛してるの期限が切れる前に
 けれど、やっぱり電動自転車と花の重みを瞬間的に受け止めるまではできなくて。

「――っ!!」

 自転車ごと倒れると共に、すぐ近くで車が急ブレーキを踏むけたたましい音が響いた。
 その数秒が、百花にはひどく長いものに感じられた。
 道路に倒れたという恐怖に、なにも考えられ句鳴った。
 雨に濡れた道路から車の振動が伝わってくる。

「馬鹿野郎っ、ちゃんと前見てろ!!」

 急ブレーキをかけた車が罵声を浴びせて走り去っていったが、頭が真っ白になっていた百花は、なにが起こったのか理解できないでいた。
 ただ心臓の音が怖いくらい大きく聞こえていた。花を抱きしめる全身がガタガタと震えている。
(今、私たち死んでたかも――)
 ブレーキを握るのが遅れていれば、百花たちは車に轢かれていた。

「は……な、花っ!?」
「う……わぁぁぁ――っ」

 だが、それも花の泣き声に霧散した。

「花っ、花! 大丈夫っ!?」
「ままぁ、ままぁ――っ!!」

 火がついたように泣き出した花に、百花はパニックになった。
 チャイルドシートを外してやりたいのに、手がかじかんで力が入らない。

「あぁ、どうしてっ」
「――俺が、する」
「――っ!」

 もたもたしていると、百花たちを抱きかかえていた手が動いた。
(そ……うよ、男の人が引き留めてくれて)
 今、百花たちを抱きかかえてくれている人が、そうなのだろう。
 彼は手早く片手でベルトを外し、脚で自転車を押しやってくれた
 座席から出た花は、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにさせながら大泣きしている。
 怖くて当然だ。
(あぁ、なんてこと――)
< 23 / 37 >

この作品をシェア

pagetop