愛してるの期限が切れる前に
 グレーのパーカーに黒のハーフパンツとレギンス、スニーカーまで黒で統一したスタイルと、密着している身体が汗ばんでいることから、彼がランニングの途中だったのが見てとれた。
 見覚えのある服装に、彼が最近見かけていたジョギングの人だと気づく。
 違うのは、帽子を被っていないという点だけ。
(けれど、どうして)
 玲桜が百花たちが住む町でランニングをしているなんて、ありえない。そう思った次の瞬間。
 玲桜に花ごと抱きしめられた。

「な――っ、や……、離し」
「離さない」

 痛いくらいの腕の強さが、冗談ではないことを体現していた。

「もも……ももっ」

 うわ言みたいに何度も百花を呼び、顔をすり寄せられる。

「や……だっ、やめて――」

 駄目だ、まるで聞こえてない。
 押しても叩いても、岩みたいにびくともしなかった。
 完全に自分の感情に囚われてしまっている。
 こんな場面、誰かに見られでもしたら。
 そう思うだけで背筋が凍る。
 彼は有名人だ。今は顔を伏せているとはいえ、見る人が見れば玲桜だとわかってしまうだろう。
 四年かけて作った平穏を脅かされたくない。玲桜が一般人と抱き合っているだけでもスクープになるだろうに、花のことまで知られたらきっと今まで通りではいかなくなる。

「お願いっ、離れて。ちょっとでいいから」

 大声で拒みたいが、玲桜の存在を知られずにするためには、小声で懇願するしかなかった。
(人が来る前に早く――っ)
 そう思った時だ。

「い――、ちゃいぃ」

 腕の中から、花がぐずった。

「――っ、ご……めん!」
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