愛してるの期限が切れる前に
 さすがに、玲桜も花の訴えには敵わなかったのか、すぐに腕の力が緩んだ。

「なんで、いるの?」

 百花は、花を抱き直しながら玲桜を見上げた。声に警戒心が滲んでしまうのは仕方のないことだ。薄茶色の前髪の奥で澄んだ蒼色の目がまっすぐ百花を見据えていたが、徐々に眉間に皺が寄っていく。
(あぁ、この顔。知ってる)
 感情を堪えているときの表情だ。
 ありありと物言いたげなのが伝わってくるのに、肝心の文句が飛んでこない。
 ぎゅっと目を瞑り腹の奥に力を入れて構えるが、いつまで経っても百花を罵る言葉は飛んでこなかった。
(あ……れ?)
 おそるおそる窺い見れば、玲桜は不機嫌そうな表情をしながらも、大きく息をつくとゆっくりと口を開いた。

「脚、ちょっとおかしいかも」
「えっ!?」

 玲桜の言葉に飛び上がって、百花は花を抱いたまま玲桜から飛び退きかけた。

「あ、あれ? 私も脚が……」

 立ち上がるとするが、脚に力が入らない。こんなこと初めてでどうしていいかわからなかった。

「あぁ、腰が抜けたのか」

 四苦八苦する百花の様子に、玲桜がぼそりと言った。

「手を貸すよ。掴まって」

 そう言うや否や、彼は道路に片手をついて左足を庇いながら立ち上がると、百花に手を伸ばしてきた。

「だい……っ、丈夫。どうにかするから」

 差し伸べられた助けを断ると、玲桜が眉を顰めた。

「どうにかするって、どうするの? 立てないんだろう」

 そのとおりだが、怪我人に無理はさせられないし、なるべく玲桜との接触は避けたかった。
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