愛してるの期限が切れる前に
 百花たちが住んでいる町に、たまたま玲桜も越してきたなんて偶然が本当に起こるものなのか。
「物言いたげな顔してる? 聞きたいことがあるなら、なんでも聞いて」
 余裕めいた口調に、百花はなにから話していいか迷った。
 玲桜と再会する自分を想像してこなかった。いや、違う。あえて考えないようにしてきた。
 思い出せば胸が痛くなるから。
 未練がましく想っていても、二度と会うことのない人だ。
 幸いにも、花が産まれてからは子育てというミッションをこなすのに精一杯で、他のことに意識を向ける暇もなかった。
「この子の名前は、ももがつけたの?」
「うん。花のようにたくさんの人に愛される子になってほしくて。私の一字から取ったの」
「花。いい名前だね。――出産は一人で?」
「予定日近くになったら両親が来てくれることになってたんだけど、この子、二週間も早く産まれてきちゃって。産院の看護師さんからパパ……両親に連絡は入れてもらったんだけど、到着したときには生まれたあとだった」
「一日で生まれたのか?」
「うん。朝病院に着いて、その日の夕方に産まれたの。雲一つない晴天の日だったわ」
 今でも、花を産んだ日のことははっきりと覚えている。
 何時に誰とどんな会話をして、なにがあったのか。
 けれど、不思議と産むときの痛みだけは思い出せないのだ。
(でも、だから二人目、三人目が産めるのかもしれないんだろうな)
 当時を思い出し、ふふっと笑った。
 すると、玲桜が百花の手に触れた。
「――ありがとう」
 まさか玲桜からお礼を言われるなん思ってもみなかった。
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