シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 同じ頃。

「ない……」

 梨来は。

 古い備品記録を眺めていた。

 誰もいない部屋。

 机の上には。

 年代の違う資料が何冊も開かれている。

 仕事中の柔らかな表情は。

 消えていた。

 目だけが。

 静かに紙面の情報を追っていく。

 古い時計。

 所在不明。

 誠星大学のどこかに存在する可能性がある。

 分かっていることは。

 それほど多くない。

「…………」

 ページをめくる。

 ない。

 次。

 ない。

 さらに次。

 やはり。

 ない。

 梨来の指が止まる。

 焦ってはいけない。

 焦りは判断を鈍らせる。

 何度も。

 教えられてきた。

 だから。

 手順通りに探す。

 見落とさない。

 それだけ。

「…………」

 それでも。

 思う。

 もし。

 自分より先に。

 誰かが見つけていたら。

 その人は。

 何も知らずに触れるだろう。

 何も知らずに。

 持ち帰るかもしれない。

 その先で。

 何が起こるのか。

 梨来にも分からない。

 組織から知らされているのは。

 回収すべき対象だということだけ。

「……早く見つけないと」

 ぽつりと。

 声が落ちた。

 任務だから。

 もちろん。

 それもある。

 けれど。

 何も知らない誰かが巻き込まれることは。

 梨来自身が。

 嫌だった。

 梨来は次の資料へ手を伸ばした。
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