シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 夜。

 自室。

 直充は机に向かっていた。

 明日の講義の準備を終える。

 ノートを閉じる。

「…………」

 机の端には。

 木箱。

 明日。

 事務室へ持っていく。

 それで終わる。

 直充は立ち上がった。

 寝ようとして。

 止まる。

「…………」

 振り返った。

 木箱を見る。

 数秒後。

 直充はもう一度。

 椅子へ座っていた。

 蓋を開ける。

 金色の懐中時計を取り出した。

 耳へ近づける。

 かち。

 かち。

 かち。

 静かな部屋では。

 昼間よりも。

 音がはっきり聞こえた。

 文字盤を見る。

 やはり。

 針は動いていない。

 裏返す。

『未来を変えるのは過去』

「…………」

 直充は。

 その言葉をしばらく見つめた。

「どういう意味だよ」

 小さく呟く。

 もちろん。

 答えはない。

 直充は時計を木箱へ戻した。

 蓋を閉じる。

 今度こそ。

 ベッドへ向かう。

 電気を消す。

 暗くなった部屋で。

 目を閉じる。

 けれど。

 最後に頭に残ったのは。

 明日の講義でも。

 サークルのことでもなかった。

『未来を変えるのは過去』

 あの。

 妙な言葉だった。

 机の上。

 閉じられた木箱の中で。

 かち。

 かち。

 かち。

 小さな音だけが。

 鳴り続けていた。
< 22 / 97 >

この作品をシェア

pagetop