シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 五分ほど経った。

 昼食を終えた直充は。

 次の講義へ向かうため。

 ベンチを立った。

 さっきのことは。

 もう考えないことにした。

 疲れていた。

 一瞬。

 変なものを見た。

 それだけ。

 説明のつかないものを。

 いつまでも考えていても仕方がない。

 直充は。

 校舎へ続く道を歩く。

 前から。

 学生たちが歩いてくる。

 友人と話している者。

 スマートフォンを見ている者。

 飲み物を持っている者。

 いつもの。

 大学の風景。

 その中に。

 白いものが見えた。

「…………」

 直充の足が。

 止まった。

 女子学生。

 肩には。

 白い鞄。

 手には。

 紙コップ。

「…………」

 さっき。

 見た。

 けれど。

 すぐに。

 自分へ言い聞かせる。

 白い鞄なんて。

 珍しくない。

 紙コップだって。

 学内のカフェで売っている。

 似ているだけだ。

 直充は。

 再び歩き出した。

 そのとき。

「すみませーん!」

 後ろから。

 声がした。

「…………」

 直充が。

 振り返る。

 一人の男子学生が。

 走ってくる。

 その姿を見た瞬間。

 胸の奥が。

 ざわついた。

 男子学生が。

 女子学生へ近づく。

 まさか。

 そう思った。

 次の瞬間。

 肩が。

 ぶつかった。

「あっ」

「…………!」

 紙コップが。

 手から離れる。

 茶色い液体が。

 宙へ飛んだ。

 直充の身体が。

 先に動いた。

 女子学生が。

 驚いて。

 一歩。

 後ろへ下がる。

 そこには。

 ベンチ。

「危ない」

 直充は。

 腕を伸ばした。

 女子学生の腕を掴む。

「えっ」

 足が。

 ベンチの脚に触れた。

 けれど。

 倒れなかった。

 直充が。

 支えていた。

「大丈夫ですか」

「は、はい……」

 女子学生が。

 目を丸くしている。

 直充は。

 身体が安定したのを確認してから。

 手を離した。

「すみません」

「い、いえ。ありがとうございます」

 走っていた男子学生も。

 慌てて戻ってきた。

「すみません! 本当に!」

「大丈夫です」

 女子学生が答える。

 地面には。

 零れた飲み物。

 目の前には。

 白い鞄。

 後ろには。

 ベンチ。

「…………」

 直充は。

 それらを見つめた。

 似ている。

 いや。

 似ているだけではない。

 見た。

 さっき。

 確かに。

 これを。

 直充の背中に。

 薄く。

 冷たいものが走った。

「…………」

 違うところが。

 一つだけある。

 女子学生は。

 倒れなかった。

 自分が。

 支えたから。

「……偶然だろ」

 小さく。

 声が漏れた。

「え?」

 女子学生が。

 直充を見る。

「何でもないです」

 直充は。

 小さく頭を下げた。

 その場を離れる。

 歩き出しても。

 胸のざわつきは。

 消えなかった。
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