シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 校舎へ入る。

 人の少ない階段まで来て。

 直充は。

 足を止めた。

「…………」

 鞄を見る。

 中には。

 あの木箱がある。

 白い鞄。

 紙コップ。

 走ってきた男子学生。

 ぶつかった肩。

 零れた飲み物。

 ベンチ。

 全部。

 見た。

 起きる前に。

「…………」

 未来。

 その言葉が。

 頭をよぎった。

「……そんなわけないだろ」

 直充は。

 すぐに否定した。

 まだ起きていないことを見る。

 そんなもの。

 あるはずがない。

 夢だったのかもしれない。

 錯覚だったのかもしれない。

 疲れていたから。

 頭の中で。

 勝手に作った光景だったのかもしれない。

 そのあと。

 偶然。

 似た出来事が起きた。

 そう考えるほうが。

 ずっとまともだ。

「…………」

 それでも。

 納得できない。

 似すぎていた。

 偶然と言うには。

 細かいところまで。

 重なりすぎている。

 直充は。

 鞄を開けた。

 木箱を取り出す。

 手の中で。

 しばらく見つめる。

 さっき。

 何をした。

 時計を開いた。

 リューズを回した。

 針は。

 動かなかった。

 少し遅れて。

 針が動いた。

 そして。

 目眩がした。

 そのあと。

 あの光景を見た。

「…………」

 時計が。

 原因なのか。

 分からない。

 あの針が。

 何を意味していたのかも。

 分からない。

 偶然だった可能性だって。

 消えてはいない。

 直充は。

 木箱の蓋へ。

 指をかけた。

 そこで。

 止まる。

 もう一度。

 同じように。

 リューズを回してみれば。

 何か分かるかもしれない。

 また。

 同じことが起きれば。

 偶然ではないと。

 判断できるかもしれない。

「…………」

 けれど。

 指は。

 動かなかった。

 何のための時計なのか。

 どういう仕組みなのか。

 何も。

 分かっていない。

「……やめとこう」

 確かめたい気持ちは。

 あった。

 けれど。

 それ以上に。

 分からないものを。

 自分の意思で動かすことへの抵抗があった。

 直充は。

 木箱を鞄へ戻した。

 もう。

 自分から。

 リューズを回すつもりはなかった。
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