シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 直充は次の講義へ向かっていた。

 鞄の中には、あの木箱がある。

 数日前、まだ起きていないはずの出来事を見たような気がした。そして約五分後、ほとんど同じことが現実に起きた。

 けれど、あれ以来時計には触れていない。

 正確には、木箱から出してすらいなかった。

 仕組みが分からない。

 何が起きたのかも分からない。

 だから確かめない。

 それだけは決めていた。

「……ん?」

 直充の足が止まる。

 焦げたような臭いがした。

 周囲には何人かの学生がいるが、気づいている様子はない。

 もう一度確かめる。

 気のせいではない。

 少し離れたところで、同じように足を止めた男子学生がいた。

 黒いキャップ。

 見覚えはない。

「……あれ? なんか焦げ臭くないっすか?」

 男子学生が鼻を動かし、直充と目が合った。

「……しますよね?」

「ああ」

「ですよね!? 俺だけかと思った」

 二人がほぼ同時に廊下の奥を見る。

 開け放たれた部屋から、薄い煙が流れていた。

「え、ちょ、煙っすよね!? あれ!」

「ああ」

 直充の表情が変わり、部屋へ近づく。

「え、行くんすか!?」

「見るだけ」

「いやいやいや、火だったらヤバくないっすか!?」

「大きかったら入らない」

「冷静だな、この人……」

 入口から中を確認する。

 人はいない。

 煙もまだ薄い。

 火元はすぐに分かった。

 机の横、コンセント付近に置かれた紙類の一部に小さな火がついている。まだ広がってはいない。

 直充はコンセントを見たあと、壁へ視線を移した。

 分電盤。

 あった。

 後ろを振り返ると、黒いキャップの男子学生がまだそこにいる。

「職員呼んできて」

「え、俺っすか?」

「早く」

「いや、そりゃ俺しかいないけど!」

「頼む」

「……っ、了解っす!」

 男子学生が走り出す。

 直充は分電盤の表示を確認し、該当するブレーカーを落とした。

 それから廊下へ出る。

 消火器の位置は、さっき通ったときに目に入っていた。

 取り外して戻り、安全栓を抜く。

 火元へ向けて、レバーを握った。
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