シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「……梨来さん」

「んー?」

 希美が鼻を動かした。

「何か焦げ臭くないですか?」

「うん」

 梨来はすでに気づいていた。

 臭い。

 わずかな煙。

 廊下の向こうで足を止め始める学生たち。

「希美ちゃん、ここにいて」

「え?」

「動かないでね」

 声はいつもと同じ柔らかさだったが、梨来はもう歩き出していた。

 角を曲がると、黒いキャップを被った男子学生がこちらへ走ってくる。

「職員! 誰か職員の人いませんか!」

「どうしたの?」

「あっ、えっと、火っす! 部屋から煙出てて!」

「場所は?」

「あっちっす!」

「中に人は?」

「分かんないっす! 今、男の人が見てて!」

「男の人?」

「名前知らないんすけど、でかくて眼鏡の――」

 梨来の足が動いた。

「黒髪?」

「え? そうっす! 黒髪!」

 直充の顔が浮かんだ。

 背が高く、眼鏡で、黒髪。それだけなら他にもいるはずなのに。

「職員には私から連絡するね。あなたは周りの学生を近づけないようにして」

「は、はい!」

 梨来は走った。
< 32 / 97 >

この作品をシェア

pagetop