シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 部屋へ着いたときには、白い粉が床へ広がり、火はもう消えていた。

 そして、そこに直充がいた。

「直充くん!」

 思っていたより大きな声が出た。

 直充が振り返る。

「先生?」

「大丈夫?」

「はい」

「怪我は?」

「ないです」

「煙吸ってない?」

「ほとんど」

「本当に?」

「はい」

 梨来は直充の顔や手、呼吸を確かめる。

 目立った異常はない。

「……よかったぁ」

 無事だと分かって、ようやく力が抜けた。

「そんな心配しなくても」

「するよ。火だよ?」

「小さかったです」

「でも火は火でしょ?」

「消せる程度だったので」

「そういう問題じゃないよ」

 直充が少し黙る。

 梨来はそこで、自分が思っていた以上に焦っていたことに気づいた。

「……ごめんね。ちょっと言い方強かったかな」

「別に」

 梨来の動きが止まった。

「何ですか」

「今の」

「何がです?」

「別に」

「……別に?」

「それ」

 直充が眉を寄せる。

「何か変ですか」

「これはどっち?」

「何の話ですか」

「本当の別に?」

「…………」

「それとも、別にじゃない別に?」

 直充は数秒、梨来を見た。

「先生」

「うん」

「何言ってるんですか」

「私も分からなくなってきた」

 直充が小さく息を吐く。

 それを見て、梨来も少し笑った。

「でも、すごいね」

「何がですか」

「すぐ消したんでしょ?」

「火が小さかったので」

「怖くなかった?」

「消せると思ったので」

 また、それだ。

 梨来は直充を見る。

 飛ばされた紙を拾ったときもそうだった。

 落ちていたから。

 邪魔そうだったから。

 目の前に飛んできたから。

 今回も、この人にとってはきっと同じなのだ。

「どうしてそんなに普通みたいに言うの?」

「普通なので」

「…………」

 本当にそう思っている顔だった。

 褒められたいわけでも、格好つけたいわけでもない。

 目の前で困っている人がいれば助ける。

 何か起きれば、自分にできることをする。

 それを特別なことだと思っていない。

 梨来は。

 そんな直充から、少しだけ目を離せなくなった。
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