シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 梨来は、いくつかのファイルを抱えて廊下を歩いていた。

 別の部屋へ運ぶだけで、大した量ではない。

 角を曲がろうとしたとき、足音が二つ聞こえた。

 一つは軽く、少し速い。もう一つは一定で落ち着いている。

 危険はない。

 そう判断してそのまま進むと、角の向こうから二人の学生が現れた。

「あ」

 黒いキャップ。

 そして、その隣にいる背の高い黒髪の学生。

 直充だった。

 気づけば、梨来は少し笑っていた。

「直充くん」

 呼ぶと、直充がこちらを見る。

 目が合った。

 昨日も会ったばかりなのに、なぜだろう。

 少し、嬉しい。

「昨日ぶりだねぇ」

「そうですね」

「講義、間に合った?」

「はい」

「転ばなかった?」

「…………」

 直充が黙った。

「転びませんでした」

「よかったぁ」

「本当に心配してたんですか」

「したよ?」

「…………」

「どうしたの?」

「別に」

「あ」

 梨来が反応した、その瞬間。

「聞かないでください」

「え?」

「どっちの別にか」

「…………」

「聞こうとしたでしょう」

「……ちょっとだけ」

「やっぱり」

 梨来は、ふふっと笑った。

「覚えてたんだね」

「何をですか」

「昨日の話」

「会話くらい覚えてます」

「…………」

「何ですか」

「覚えててくれたんだなぁと思って」

 昨日、自分が言ったことを覚えていてくれた。

 それだけで、口元が緩んだ。
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