シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「直充さん!」

 隣にいた大我が声を上げる。

「この人、昨日の人っすよね?」

「ああ」

 大我が梨来を見る。

「昨日ぶりっす!」

「うん。昨日ぶりだねぇ」

「俺、大我っす!」

「昨日聞いたよ?」

「覚えてくれてた!」

「ちゃんと覚えてるよ」

「やった!」

 大我が笑い、そのまま梨来の腕の中へ視線を落とした。

「うわ、ファイル多くないっすか?」

「そう?」

「重くないっすか?」

「大丈夫だよ」

「俺持ちま――」

 大我が手を伸ばす。

 その前に、直充が梨来の前へ一歩近づいた。

「それ、持ちます」

「え?」

 返事をするより先に、直充の手が一番上のファイルへ伸びる。

 そのとき、梨来の指先と直充の指がほんの少しだけ触れた。

「…………」

 梨来の手が止まる。

 直充は気づいていないのか、そのまま上のファイルを何冊か持ち上げた。

「どこまでですか」

「…………あ」

 梨来は瞬きをする。

「えっと……向こうの部屋」

「じゃあ持ちます」

「大丈夫だよ?」

「そうですか」

「うん。重くないし」

「そうでしょうね」

「…………」

 梨来が直充を見る。

「じゃあ、なんで持ってくれるの?」

「俺もそっち行くので」

「…………」

「二人で持った方が楽でしょう」

 それだけ言って、直充は歩き出した。

「行かないんですか」

「あ、うん」

 梨来も歩き出し、隣へ並ぶ。

 腕の中はさっきより軽くなっている。

 けれど梨来が見ていたのは、ファイルを持つ自分の指先だった。

 さっき、ほんの少しだけ触れたところ。

 任務なら、人に触れることなんて珍しくもない。もっと近い距離で誰かと対峙することだってある。

 なのに。

 どうして今のは、こんなに気になるんだろう。

「前」

「え?」

 顔を上げると、目の前に学生がいた。

「あ」

 梨来が避けようとする。

 その前に、直充の手が梨来の腕を軽く引いた。

「こっち」

「…………」

 半歩、直充の方へ寄る。

 すぐ近くに直充の肩があった。

 すれ違った学生が横を通り過ぎていく。

「危ないですよ」

「…………」

「大丈夫ですか」

「大丈夫」

「さっきからぼーっとしてません?」

「してないよ?」

「してました」

「してないと思う」

「今ぶつかりそうでしたけど」

「…………」

 それは、そうだった。

「考え事?」

「……ちょっとだけ」

「歩くときは前見た方がいいですよ」

「……気をつけます」

 言われてから、梨来ははっとする。

「私、怒られてる?」

「注意してるだけです」

「そっかぁ」

 梨来は笑った。

 直充はもう前を向いていて、腕から手も離れている。

 なのに、そこだけまだ少し直充の手が残っているような気がした。

 変なの。

 梨来は無意識に、自分の腕へそっと触れた。
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