シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「俺……」

 後ろを歩いていた大我が、自分の手を見る。

「今、持とうとしたんすけど」

 誰も反応しない。

「俺もファイル持とうとしたんすけど!?」

 少し大きく言うと、梨来が振り返った。

「んー?」

「いや、俺もファイル持とうとしたんすよ!」

「そうなの?」

「そうっす!」

「ありがとう」

「いや、直充さんに先越された!」

「何の勝負だ」

「勝負じゃないっすけど!」

「じゃあいいだろ」

「なんか悔しい!」

「知らない」

 直充はそのまま歩く。

「待ってくださいよ、パイセン!」

「その呼び方やめろ」

「じゃあ師匠!」

「もっとやめろ」

「まだ駄目なんすか!?」

「ずっと駄目だ」

「厳しい!」

 梨来が吹き出した。

「ふふっ」

 二人が見る。

「ごめんね。仲いいなぁと思って」

「昨日会ったばっかりです」

「もう仲いいっす!」

「よくない」

「ええ!?」

 大我が本気で驚いた顔をする。

 梨来はまた笑った。

 もう少し、この時間が続けばいいのに。

 そんなことを思った自分に、梨来は少し驚いた。

「ここですか」

 気づけば、目的の部屋の前だった。

「あ」

「これ、どこ置きます?」

「そこの机で大丈夫だよ」

 直充が中へ入り、ファイルを置く。

「ありがとう。助かったよ」

「ならよかったです」

 それだけ言って、直充が自分の書類を持ち直した。

「じゃあ」

「あ」

 梨来が呼び止める。

 直充が振り返った。

「何ですか」

「…………」

 用事はない。

 ファイルは運び終わり、お礼も言った。

 それでも、このまま行ってしまうのが少し惜しくて。

「……またね」

 出てきたのは、それだけだった。

 直充は少しだけ梨来を見て。

「はい」

 そう返し、歩き出した。

「直充さん待ってくださいよ!」

 大我がそのあとを追う。

 二人の姿が廊下の向こうへ消えていく。

 梨来は、しばらくそこに立っていた。

 また会うのは明日かもしれないし、何日か後かもしれない。

 分からない。

 でも。

 また会えたら、きっと嬉しい。

「…………」

 そこまで考えて、梨来は少しだけ目を瞬いた。

 今。

 〝少し〟をつけなかった。

 そのことがなぜだか恥ずかしくて、誰も見ていない廊下でそっと自分の頬へ触れた。
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