シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「梨来さん!」

 希美の声に、梨来が顔を上げる。

「んー?」

「こっちはいませんでした」

「そっかぁ」

「正門の方、もう一回見てきます?」

「そうだねぇ。でも――」

「何してるんすか?」

 別の声が重なった。

 振り返ると、黒いキャップ。

 その後ろには。

「…………」

 直充。

 目が合った瞬間、梨来の口元が自然に緩んだ。

「直充くん」

「こんにちは」

「うん。こんにちは」

 昨日、また会えたらきっと嬉しいと思った。

 そして本当に会えた今。

 やっぱり、嬉しかった。

「何か探してるんですか」

「あ、うん。猫」

「猫?」

 梨来がスマートフォンの写真を見せる。

「この子。昨日からいなくなってるんだって」

 直充が画面を見る。

「最後に見たのは?」

「午前中に正門の近くです」

 女子学生が答える。

「何時頃ですか」

「十時くらいです」

「家は?」

「大学の南側です。歩いて十五分くらいで」

「普段、外には?」

「出ないです。ずっと家の中で」

「性格は?」

「すごく臆病で、知らない人が来るとすぐ隠れます。大きな音も苦手です」

「…………」

 直充が周囲を見る。

 東側からは、古い建物を補修する工事の音が聞こえていた。

 反対側には駐輪場。その奥には植え込みが続き、人通りも少ない。

「こっちです」

「え?」

 直充が歩き出す。

「分かるの?」

「たぶん」

「なんでっすか?」

 大我が聞く。

「人少ないから」

「それだけ!?」

「あと静かだろ」

 直充は振り返らない。

「行かないのか」

「あ、行く!」

 梨来がすぐにあとを追う。

「ちょ、待ってくださいよ!」

 大我も追いかけ、希美と女子学生も続いた。

 歩きながら梨来は周囲を見る。

 工事の音。

 学生の多い通路。

 そして、直充が向かう静かな駐輪場。

「……あ」

 分かった。

 梨来は直充の隣へ並ぶ。

「工事の音、嫌がるもんね」

「たぶん」

「人が少なくて、隠れられるところも多い」

「はい」

「だからこっち?」

「可能性はあるかと」

「そっかぁ」

 直充はそれ以上説明せず、梨来も聞かなかった。

 必要なことだけ聞いて、周りを見て、すぐに動く。

 その考えが自然に分かったことが、少しだけ嬉しかった。

「仕事は?」

「ちょっとだけなら大丈夫だよ?」

「そうですか」

「うん」

「ならいいですけど」

「直充くんも手伝ってくれるの?」

「帰るだけだったので」

「でも――」

「人多い方が早いでしょう」

「…………」

 まただ。

 何でもないことみたいに言う。

「ありがとう」

「別に」

 梨来は少し笑った。

「でも、嬉しそうですね」

「え?」

 不意に言われ、直充を見る。

「私?」

「はい」

「そう見える?」

「見えます」

「…………」

 梨来は自分の頬へ触れた。

「そんなに分かりやすい?」

「今は」

「今は?」

「笑ってるので」

「あ」

 言われて気づく。

 確かに笑っていた。

「猫、見つかりそうだからかなぁ」

「まだ見つけてませんけど」

「そうだった」

「気が早いです」

「ふふ」

 また笑う。

 その理由を。

 梨来はまだ、深く考えなかった。
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