シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「待って」

 しばらくして、直充が足を止めた。

「どうしたの?」

「静かに」

 梨来も止まる。

 学生の声。

 遠くを走る車。

 風で葉が擦れる音。

 その中に、かすかな鳴き声が混じった。

「……にゃ」

「!」

 梨来が目を見開く。

「今」

「聞こえました」

「どこ?」

 もう一度。

「にゃあ……」

 直充が駐輪場の奥へ向かう。

「こっち」

 梨来も続く。

 古い倉庫との隙間を覗くと。

「いた……!」

 白と茶色。

 青い首輪。

 猫が狭い隙間の奥で身体を丸めていた。

「チョコ?」

 梨来がしゃがむ。

 猫の身体が小さく縮こまった。

「怖がってるね」

「近づかない方がいいです」

 直充も少し離れたところでしゃがむ。

「逃げるかもしれないので」

「どうする?」

「飼い主呼びましょう」

 女子学生を呼ぶと、すぐに駆けてきた。

「チョコ!」

「待って」

 直充が止める。

「急に行くと逃げるかもしれないです」

「あ……」

「そこから呼んでください」

 女子学生がしゃがむ。

「チョコ、おいで」

 猫の耳が動く。

「大丈夫だよ。チョコ」

 少しずつ顔を上げるが、出てこない。

「好きな食べ物あります?」

「持ってます」

 女子学生が鞄から猫用のおやつを取り出し、封を開ける。

 匂いが届いたのか、猫の鼻が動いた。

 一歩。

 また一歩。

 ゆっくり近づいてくる。

「チョコ……」

 あと少し。

 そのとき、遠くで大きな音がした。

 猫がびくっと身体を震わせ、奥へ戻ろうとする。

「あっ」

 直充がゆっくり手を伸ばした。

「大丈夫」

「…………」

 低く、落ち着いた声。

「怖くない」

 猫が止まった。

 直充はそれ以上近づかず、ただ手を差し出している。

 猫がその手の匂いを嗅ぐ。

「ほら」

 直充が女子学生の方を見る。

「いるから」

 猫の耳が動き、やがて直充の前を通って女子学生の方へ歩いていく。

「チョコ!」

 女子学生が猫を抱き上げた。

「よかった……!」

 ぎゅっと胸に抱きしめると、猫も小さく鳴いた。

「よかったぁ」

 梨来も笑う。
< 47 / 97 >

この作品をシェア

pagetop