シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

8.先生じゃない

 翌日。

「梨来さん!」

「はーい」

 事務室の前で手を振る希美に、梨来もひらひらと手を振り返す。

「昨日、チョコちゃん無事に家帰ったみたいですよ!」

「ほんと?」

「はい! さっき写真送ってもらいました」

 希美がスマートフォンを差し出す。

 画面には、クッションの上で丸くなって眠るチョコ。

「あぁ、よかったぁ」

「めちゃくちゃくつろいでますよね」

「昨日あんなに怖がってたのにねぇ」

「家が一番なんでしょうね」

「そっかぁ」

 梨来は画面を見ながら笑った。

 よかった。

 チョコが無事に帰れたことも、飼い主の女子学生が今日は少し眠れたらしいことも。

 それから――

『大丈夫』

「…………」

 昨日の直充の声が、ふいに蘇る。

 低く、落ち着いた声。

 怯えるチョコへ手を伸ばしながら、ゆっくりと話しかけていた。

『怖くない』

「梨来さん?」

「んー?」

「ぼーっとしてません?」

「してないよ?」

「してました」

「考え事してただけ」

「何の?」

「…………」

 梨来は少し考える。

「昨日のこと」

「猫の?」

「それもあるよ」

「それも?」

「うん」

 希美がじっと梨来を見る。

「なぁに?」

「最近、なんか楽しそうですよね」

「そう?」

「はい」

 昨日も、似たようなことを言われた。

『でも、嬉しそうですね』

「…………」

 今度は直充の顔まで浮かんだ。

「梨来さん?」

「んー?」

「また考えてる」

「考えてるよ?」

「何を?」

「……いろいろ」

「怪しい!」

 梨来は、ふふっと笑った。

 自分でもまだ分からないのだから、説明のしようがない。

 ただ。

 今日も直充に会えたらいいな。

 そんなことを思った。
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