シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「すごいねぇ」

「何がですか?」

「人」

「お昼はいつもこんな感じですよ」

「へぇ」

 学食へ入った梨来は、辺りを見回した。

 長い列。

 料理の匂い。

 トレーを持って歩く学生たち。

 空いている席を探す声。

 笑い声。

 食器が触れ合う音。

「…………」

 知っている場所なのに。

 中へ入ると、外から見ていたときとは少し違って見えた。

「梨来さん、何食べます?」

「…………」

「梨来さん?」

「いっぱいあるねぇ」

「ありますよ」

「迷うね」

「なんでそんな難しい顔するんですか」

「全部ちょっとずつ食べてみたい」

「無理ですよ」

「だよねぇ」

 梨来が真剣にメニューを見つめる。

 希美が笑った。

「そんなに珍しいですか?」

「だって初めてだもん」

「え?」

「学食」

「…………」

 希美の笑顔が止まった。

「初めて?」

「うん」

「ここの学食が?」

「学食が」

「…………」

「梨来さん」

「んー?」

「人生で?」

「うん」

「ええ!?」

 近くにいた学生が振り返った。

「希美ちゃん、声」

「あ、すみません」

 希美が慌てて口元を押さえる。

「待ってください。梨来さん、学食初めてなんですか?」

「そうだよ?」

「今までどうしてたんです?」

「お弁当持ってきたり、外で買ったり」

「大学で働いてるのに?」

「うん」

「なんで?」

「…………」

 梨来は少し考えた。

「機会がなかったから?」

「なんで疑問形なんですか」

「ふふ」

 本当は、一人で食べるだけならいつでもできた。

 でも。

 梨来が憧れていたものは、少し違う。

「じゃあ今日は記念日ですね!」

「記念日?」

「梨来さん、初学食記念日!」

「そんな記念日あるの?」

「今できました!」

「ふふ」

 希美がメニューを指差す。

「何にします?」

「おすすめは?」

「日替わりは無難です。あとカレーも人気ですよ」

「ラーメンもある」

「あります」

「うどんも」

「あります」

「丼も」

「あります」

「…………」

「決められない?」

「うん」

「真剣すぎる!」
< 57 / 97 >

この作品をシェア

pagetop