シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 梨来がメニューと睨めっこしていると。

「希美さん!」

「あ」

 聞こえてきた声に、希美が振り返った。

「大我くん」

 梨来もそちらを見る。

 黒いキャップを被った大我。

 その隣に。

「…………」

 直充がいた。

 目が合う。

「梨来さん」

「…………」

 昨日から変わった呼び方。

 たったそれだけで、梨来の口元が自然と緩んだ。

「んー?」

「二人も学食ですか」

「そう。梨来さん、今日が初めてなんだって」

「え、マジっすか!?」

「大我くん、声」

「あ、すんません」

 大我が声を落とす。

「人生初っすか?」

「うん」

「なんで!?」

「みんな同じこと聞くねぇ」

「いや、だって大学で働いてるんすよね?」

「そうだよ」

「学食あるの知ってました?」

「それは知ってるよ?」

「よかった!」

「何が?」

「存在から知らないのかと思った!」

「そこまでじゃないよぉ」

 梨来が笑う。

 直充がメニューへ目を向けた。

「決まったんですか」

「まだ」

「梨来さん、全部食べたいんだって」

 希美が答える。

「ちょっとずつね」

「無理でしょう」

「分かってるよ?」

「ならいいですけど」

「直充くんは?」

「日替わりです」

「もう決めたの?」

「はい」

「よく食べるの?」

「いや」

 直充がメニューを見る。

「普段は弁当なので」

「お弁当?」

「はい」

「自分で作るの?」

「大体は」

「…………」

 梨来が直充を見る。

「何ですか」

「直充くん、お弁当作るんだねぇ」

「作りますけど」

「へぇ」

「そんなに意外ですか」

「ううん。なんか」

 梨来は少し笑った。

「直充くんらしいなぁって」

「そうですか?」

「うん」

 健康に気を遣って。

 無駄遣いもしなくて。

 きっと朝から、必要な分だけ手際よく詰めている。

 まだ見たこともないのに、なんとなく想像できた。

「じゃあ今日は?」

「作る時間なかったので」

「そっかぁ」

 梨来はもう一度メニューを見る。

「じゃあ私も日替わりにしよっかな」

「何でですか」

「直充くんと同じの」

「…………」

「初めてだから、何がいいか分かんないし」

「他にもあるでしょう」

「あるねぇ」

「じゃあ何で」

「んー……」

 梨来は日替わり定食の写真を見る。

 それから、直充を見る。

「一緒の食べてみたいから」

「…………」

 直充が黙った。

 梨来は首を傾げる。

「そういうのも、楽しそうでしょ」

「まあ」

「じゃあこれにする」

「そうですか」

「うん」

 梨来は満足そうに頷いた。

 大我が隣で二人を見る。

 希美も見る。

「…………」

「…………」

「何?」

 梨来が首を傾げる。

「いえ」

 希美が笑う。

「なんでもないです」

「俺も日替わりに――」

「大我くん、カレー食べたいって言ってなかった?」

「……カレーにします!」

「ふふ」
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