シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「これが学食……」

 梨来はトレーを持ちながら呟いた。

「まだ言ってるんすか?」

「だって初めてだから」

「普通の定食っすよ」

「大我くん」

「はい?」

「普通って、結構すごいんだよ?」

「…………」

 大我が首を傾げる。

「深い話っすか?」

「ううん」

「違うんすか!」

 梨来は笑った。

 日替わり定食。

 ご飯。

 味噌汁。

 小鉢。

 今日の主菜。

 どこにでもありそうな昼食。

 それでも梨来には、少し特別に見えた。

「あ」

 梨来が足を止める。

「あそこ、空いてるね」

 少し先の四人掛けのテーブルを指差した。

「ほんとだ」

 希美が笑う。

「行きましょう!」

「うん」

 梨来はトレーを持ったまま、少しだけ足を速める。

「梨来さん、なんか楽しそうっすね」

「楽しいよ?」

「まだ食べてもないっすよ」

「でも、席見つけたよ」

「席見つけただけっすよ!?」

「ふふ」

「梨来さん、初めてだから全部楽しいんですよ」

 希美が笑いながら言う。

「そうかも」

 梨来も笑った。

 メニューを選ぶのも。

 トレーを持って歩くのも。

 空いている席を探すのも。

 梨来にとっては、全部初めてだった。

 希美が先に座り、その隣へ大我が座る。

 梨来も空いている椅子へ向かおうとして。

「梨来さん」

「んー?」

 直充が奥側の椅子を少し引いた。

「こっち」

「え?」

「通路側、人多いので」

 梨来が隣を見る。

 確かに、学生が何人もトレーを持って行き来している。

「直充くんは?」

「俺はこっちでいいです」

 そう言って、直充は通路側へ座った。

「…………」

 梨来も奥へ座る。

 たぶん。

 直充にとっては何でもないこと。

 人が多いから。

 ぶつかったら危ないから。

 ただ、それだけ。

 昨日、猫を探したときもそうだった。

 直充は必要なことを見つけて、自然に動く。

 大げさに説明することもない。
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