シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 昼休みが終わり、四人で学食を出る。

「俺、次こっちっす!」

「私も途中まで一緒」

「じゃあ行きましょう、希美さん!」

「うん」

「直充さんも!」

「俺は反対」

「なんで!」

「講義室が反対だからだろ」

「あ、そっか!」

「…………」

「そんな顔しないでくださいよ!」

「何もしてない」

 梨来が笑う。

「じゃあね、希美ちゃん。大我くん」

「はい。また!」

「またっす!」

 二人が離れていく。

 梨来と直充も反対方向へ歩き出した。

「直充くんは講義?」

「はい」

「そっかぁ」

「梨来さんは?」

「仕事」

「そうですよね」

「うん」

 少しだけ並んで歩く。

 さっきまで四人だったからか、二人になった途端に静かになった。

 でも。

 嫌ではなかった。

「梨来さん」

「んー?」

 呼ばれて、直充を見る。

 昨日から変わった呼び方。

 何度聞いても、まだ少しだけ嬉しい。

「学食」

「うん?」

「そんなに行きたかったんですか」

「…………」

 梨来は少し考える。

「行きたかったよ」

「そうなんですね」

「うん」

「なら、もっと早く行けばよかったのに」

「一人だったから」

「一人でも食べられますよ」

「そうじゃなくてねぇ」

「?」

 梨来は笑った。

「誰かと行ってみたかったの」

「…………」

「一緒にご飯食べて、喋って。そういうの」

 直充が梨来を見る。

「したことなかったんですか」

「うん」

「…………」

 ほんの少し、直充の表情が変わった。

 けれど理由は聞かなかった。

「楽しかったですか」

「楽しかったよ」

「そうですか」

「うん」

 梨来は頷く。

「すごく」

「…………」

 直充が前を向く。

 何歩か歩いて。

「じゃあ」

「ん?」

「また行きましょう」

「…………」

 梨来の足が止まりかけた。

 直充も一歩先で足を止め、振り返る。

「どうしました?」

「今」

「はい」

「また行こうって言った?」

「言いましたけど」

「…………」

「さっきも言ったでしょう。時間合えば行くって」

「そうだけど」

 少し違う。

 さっきは。

 梨来が聞いたから、答えてくれた。

 今は。

 直充から言ってくれた。

「嬉しい」

 気づけば、そのまま口にしていた。

「…………」

 直充が少し目を瞬く。

「そんなにですか」

「うん」

「学食ですよ」

「知ってるよ?」

「普通の」

「うん」

 梨来は笑った。

「だから嬉しいの」

「…………」

 直充には、きっと分からない。

 普通に学校へ通って。

 普通に友達とご飯を食べる。

 そんな日々を知らなかった梨来にとって。

 今日みたいな時間が、どれほど嬉しいものなのか。

 でも。

 分からなくても。

「じゃあ、また」

 直充が言った。

「一緒に食べましょう」

「…………」

 胸の奥が、きゅっとなる。

「うん」

 梨来はゆっくり笑った。

「約束ね」

「約束するほどのことですか?」

「私にはするほどのことだよ」

「…………」

「じゃあ約束」

「はい」

 直充が歩き出す。

 梨来も、その隣へ並んだ。
< 62 / 97 >

この作品をシェア

pagetop