シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 店を出ると、空はさっきより少し暗くなっていた。

 駅へ向かう人の流れに混ざりながら、梨来はチョコレートの箱を開ける。

「もう食べるんですか」

「せっかくだから」

 一つ口へ入れる。

「美味しい」

「よかったですね」

 梨来は箱を直充へ差し出した。

「はい」

「…………」

「一緒に食べるんでしょ?」

「そうでしたね」

 直充が一つ取る。

「どう?」

「美味しいです」

「よかった」

「梨来さんが作ったわけじゃないでしょう」

「そうだけど、一緒に食べたかったから」

 梨来はもう一つ取る。

「今日、一緒が多いねぇ」

「何がですか」

「一緒に帰って、寄り道して。今はチョコも一緒」

「そうですね」

「なんかいいね、こういうの」

「…………」

 直充から返事がない。

 梨来が隣を見ると、こちらを見ていた。

「何?」

「楽しそうだなと思って」

「うん。楽しいよ」

 素直に答える。

「直充くん、私のことよく見てるねぇ」

「隣にいるから目に入るだけです」

「前より、私のこと分かるようになった?」

 直充は少し考える。

「前よりは」

「…………」

 今度は梨来が黙った。

 思っていたより、その言葉が嬉しかった。

「梨来さん?」

「嬉しいなぁと思って」

「それもですか」

「それも」

「何でですか」

「うん。私のこと、前より分かってくれてるんだなぁって」

「…………」

「それが嬉しい」

「…………」

 直充は前を向いた。

「分からなくはないです」

「そっか」

 二人でしばらく歩く。

 梨来は残ったチョコレートを見ながら、さっきから自分が楽しい理由を考えた。

 帰り道だから。

 寄り道だから。

 やってみたかったことだから。

 どれも間違ってはいない。

 でも、それだけなのだろうか。

「直充くん」

「はい」

「直充くんと一緒だから、こんなに楽しいのかなぁ」

「…………」

 隣の足音が、ほんの一瞬だけずれた。

 梨来が顔を上げる。

「どうしたの?」

「いや」

「今、ちょっと歩き方変だったよ?」

「何でもないです」

「そう?」

「はい」

 梨来は少し考えてから、また口を開いた。

「直充くんはどう思う?」

「何がですか」

「直充くんと一緒だから楽しいのかなって」

「俺に聞かれても分からないでしょう」

「じゃあ、もう少し一緒にいたら分かるかなぁ」

「…………」

「そのうち分かるといいな」

 梨来はそう言って、また前を向いた。

 直充から返事はなかった。

 ただ、梨来を見る時間が、ほんの少し長くなっていた。
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