シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 駅が見えてきた。

「あ」

 梨来の歩く速度が少しだけ緩む。

「着いちゃった」

「着きますよ。駅に向かってたんだから」

「そうなんだけどねぇ」

 いつもなら何とも思わない距離なのに、今日は少し短かった気がする。

 改札の前まで来る。

「梨来さん、どっちですか」

「こっち」

「俺は反対です」

「そっか」

 ここで終わり。

 そう思うと、少し名残惜しい。

「今日、楽しかった」

「コンビニですか」

「それも」

「他にも?」

「直充くんと一緒に帰ったこと」

「…………」

「寄り道も初めてだったし」

 直充が梨来を見る。

「楽しかったですか」

「すごく」

「それならよかったです」

「直充くんのおかげだね」

「俺、帰ってただけですけど」

「一緒にいてくれたでしょ?」

「…………」

「それでいいの」

 直充が黙る。

 改札へ向かう人たちが、二人の横を通っていった。

「ちょっと終わるの、もったいないなぁ」

 思ったままを口にすると、直充が梨来を見る。

「変かな?」

「いや」

 少しだけ視線を外してから。

「変じゃないです」

「よかった」

 短い間が空く。

 それから直充が言った。

「じゃあ、また帰ればいいでしょう」

「…………」

 梨来が顔を上げる。

「一緒に?」

「時間合えば」

「今日みたいに?」

「はい」

 梨来の頬が緩んだ。

「じゃあ、また帰ろっか」

「はい」

「たまには寄り道もしようね」

「もう決まってるんですか」

「嫌じゃないでしょ?」

「まあ」

「じゃあ決まり」

「…………」

 梨来は自分の改札へ向きかけて、もう一度直充を見る。

「また一個、楽しみが増えた」

「学食もありますけど」

「覚えてた」

「約束したでしょう」

「うん」

 また一緒にご飯を食べる。

 また一緒に帰る。

 何でもない予定なのに、次があると思うだけで嬉しい。

「直充くん」

「はい?」

「またね」

「はい。また」

 二人はそれぞれ反対方向へ歩き出した。

 数歩進んだところで、梨来は振り返る。

 直充も、こちらを見ていた。

「…………」

 目が合った。

 梨来は小さく手を振る。

 直充も片手を上げた。

 それだけで、胸の奥が少し温かくなった。
< 70 / 97 >

この作品をシェア

pagetop