シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 梨来は弁当へ箸を伸ばした。

 けれど。

 頭の中には、自然と昨日の帰り道が浮かんでいた。

『今日、一緒が多いねぇ』

『何がですか』

『一緒に帰って、寄り道して。今はチョコも一緒』

『そうですね』

『なんかいいね、こういうの』

 駅まで歩いて。

 コンビニへ寄って。

 飲み物を選んで。

 チョコを分けた。

 本当に、それだけ。

 特別なことなんて何もしていない。

 なのに。

 思い出したのは。

『もう一回笑って?』

『何でですか』

『見たいから』

「…………」

「梨来さん?」

「ん?」

「今、何思い出しました?」

「昨日のこと」

「直充先輩との?」

「うん」

「何を?」

「笑った顔」

「…………」

 また希美が黙った。

「今度は何?」

「直充先輩の笑った顔、思い出してたんですよね?」

「そう」

「なんでです?」

「昨日は、もう一回見たいと思ったから」

「今は?」

「今?」

「今、思い出した理由です」

「ああ」

 言われてみれば。

 昨日、見たかった理由は分かる。

 けれど。

 今。

 こうして思い出した理由は。

「それは、私にも分からない」

 希美がじっと梨来を見る。

「直充先輩と一緒にいるの、楽しいですか?」

「楽しいよ」

 そこには迷わなかった。

「学食も?」

「うん」

「一緒に帰ったのも?」

「うん」

「コンビニも?」

「そうだね」

「じゃあ」

 希美が少しだけ身を乗り出した。

「普通のことだから楽しいんじゃなくて、直充先輩だから楽しいんじゃないですか?」

「…………」

 昨日。

 自分でも似たようなことを言った。

『直充くんと一緒だから、こんなに楽しいのかなぁ』

 あのときも。

 答えは分からなかった。

 今も、まだ分からない。

 ただ。

 違うとは思えなかった。

「……そうなのかな」

 希美の目が丸くなる。

「え」

「何?」

「否定しないんですね」

「否定する理由もないから」

「梨来さんが進んでる……!」

「何の話?」

「恋愛です!」

「まだそこまでは分かってないよ」

「でも前より絶対進んでます!」

「そう見える?」

「見えます!」

 梨来は少し笑った。

「直充くんといるとね」

「はい」

「初めてのことが増えるの」

「学食とか?」

「うん。帰り道とか、寄り道とか」

 梨来は箸を置いた。

「そういうの、やってみたかったんだよね」

 希美はしばらく梨来を見ていた。

「梨来さんって、普通のこと好きですよね」

「好きだよ」

「なんでそんなに?」

 梨来の指が、ほんの少しだけ止まった。

 希美に深い意味はない。

 ただ、気になっただけ。

 だから梨来も、いつものように柔らかく笑った。

「こういうの、好きなんだよね」

「普通のことが?」

「うん」

「普通すぎません?」

「普通だから、いいんだよ」

 それ以上は聞かれなかった。
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