シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 元の棚まで戻る。

「じゃあ、私は仕事戻るね」

「はい」

「直充くんも頑張って」

「梨来さんも仕事してください」

「してるよ?」

「今、図書館ですけど」

「返却も仕事」

「そうですか」

「そうです」

 梨来が小さく笑う。

「じゃあ、またね」

 手を小さく振る。

 直充も軽く手を上げた。

 梨来が歩き出す。

「…………」

 直充はその背中を見る。

 三歩。

 四歩。

 梨来はそのまま歩いていく。

「…………」

 直充が追いかける。

 数歩で追いついた。

「梨来さん」

「……っ」

 すぐ横から聞こえて。

 梨来が振り向く。

「…………」

「…………」

 思ったより。

 近かった。

 振り向いた先。

 すぐそこに、直充の顔がある。

 梨来が僅かに目を見開いた。

「……びっくりした」

「すみません」

「近かったから」

「…………」

 直充が半歩だけ下がる。

 梨来はその距離を目で追って。

 少し笑った。

「それで、どうしたの?」

「今日」

 直充も声を落とす。

「何時までですか」

「…………」

 梨来が目を瞬く。

「五時半くらい」

「俺も、そのくらいには終わると思います」

「…………」

 梨来の目元が柔らかくなる。

「一緒に帰る?」

「そのつもりで聞きました」

「…………」

 今度は。

 梨来が少しだけ黙った。

「何ですか」

「嬉しい」

「…………」

「直充くんから誘ってくれたから」

「……時間聞いただけですけど」

「一緒に帰るつもりだったんでしょ?」

「まあ」

「じゃあ同じだよ」

「そうですか」

「うん」

 梨来はまだ笑っている。

「じゃあ、あとで」

「はい」

 梨来が今度こそ離れていく。

 数歩進んで。

 振り返った。

 唇だけが動く。

『あとでね』

「…………」

 直充も。

 小さく頷いた。
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