シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 一冊。

 棚へ戻す。

 二冊。

 分類を確認する。

 三冊。

 位置を入れ替える。

「…………」

 作業を再開して。

 しばらく経った。

 直充は腕時計を見る。

 四時十二分。

「…………」

 まだ一時間以上ある。

 また本へ手を伸ばす。

 五時半。

 梨来と帰る。

 ただ、それだけだ。

 昨日も一緒に帰った。

 特別なことではない。

「…………」

 次の本を棚へ入れる。

 さっきより。

 少しだけ作業が速くなっている気がする。

「…………」

 直充は手を止めた。

 気のせいだ。

 次の棚へ移る。

 そこには、今までより古い本が並んでいた。

 色褪せた背表紙。

 文字が消えかけているものもある。

 大学の沿革。

 研究資料。

 古い名簿。

 記念誌。

 報告書。

 何冊かまとめて抜く。

 そのとき。

 奥で何かが倒れた。

「…………」

 直充が覗く。

 棚の奥。

 一冊だけ横向きに倒れている。

 手を伸ばした。

 引き出す。

「…………」

 本ではない。

 黒ずんだ布張りの表紙。

 題名はない。

 角が擦れ。

 紙も黄色く変色していた。

「……日誌?」

 小さく呟く。

 開く。

 古い日付。

 手書きの文字。

 天気。

 その日の出来事。

 大学で会った人間。

 何でもない記録が続いている。

「…………」

 名前はない。

 図書館の蔵書を示す印も見当たらない。

 どうして棚の奥にあったのかも分からない。

 職員に渡すか。

 そう思って。

 閉じかけた。

「…………」

 指が止まる。

 ページの端。

 一つの単語が目に入った。

 ――時計。

「…………」

 直充は、その行を見る。

 ――今日も、時計は動かなかった。

「…………」

 数秒。

 文字を見つめる。

 ただの時計だ。

 珍しくもない。

 それでも。

 直充はページをめくった。

 数日後。

 ――針は止まったままだ。

「…………」

 次。

 ――壊れているようには見えない。

 直充の眉が僅かに寄る。

 頭の中に。

 金色の懐中時計が浮かんだ。

 古い資料室。

 木箱。

 蓋を開けたとき。

 針は止まっていた。

「…………」

 偶然だ。

 まだ。

 そう思える。

 直充は近くの椅子を引いた。

 音を立てないように座る。

 日誌を机へ置いた。
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