シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 時計について書かれた最初の記録まで戻る。

 六月十二日。

 少し癖のある文字で書かれていた。

 ――倉庫の整理中、古い時計を見つけた。

 ――ずいぶん前のものらしい。捨てるには惜しいので、とりあえず預かることにした。

「…………」

 直充の指が止まる。

 倉庫。

 それだけでは。

 あの資料室と同じ場所なのかは分からない。

 次の日。

 六月十三日。

 ――昨日の時計を机の上に置いている。

 ――針は十二時十七分で止まったまま。

 ――巻けば動くのかと思ったが、よく分からない。

 ――ただ、耳を近づけると小さな音がする。

 ――止まっている時計が、どうして音だけするんだろう。

「…………」

 直充の目が細くなる。

 自分が見つけた時計も。

 針は止まっていた。

 それでも。

 蓋を開ければ。

 微かに音がした。

 規則正しく。

 時を刻むように。

 次の記録。

 六月十五日。

 ――今日も針は十二時十七分のまま。

 ――壊れているなら直してもらおうと思ったが、不思議と壊れている感じがしない。

 ――根拠はない。

 ――ただ、音だけは毎日変わらず鳴っている。

「…………」

 直充はページをめくる。

 六月十八日。

 そこで。

 文字が少し乱れていた。

 ――時計を動かしてみようと思った。

 ――正しい時刻に合わせれば、普通に使えるかもしれない。

「…………」

 直充の指先が止まる。

 次の行。

 ――横のリューズを回した。

 ――何度か回してみたが、すぐに針は動かなかった。

「…………」

 直充は息を止めた。

 さらに下。

 ――その少し後に、止まっていたはずの針が突然動いた。

「…………」

 あの日。

 昼休み。

 ベンチ。

『時間合わせたら動くのか?』

 リューズを回した。

 何も起きなかった。

 指を離して。

 少しして。

 すっ。

 止まっていた針が動いた。

「…………」

 直充の手が無意識に鞄へ向かう。

 途中で止めた。

 ここで出す必要はない。

 あの日から。

 一度も触っていない。

 蓋も開けていない。

 リューズにも触れていない。

 それが。

 今も鞄の奥にある。

「…………」

 直充は日誌へ視線を戻した。

 六月十八日の記録には。

 まだ続きがあった。

 ――変なものを見た。

 ――夢だったのかもしれないと、その時は思った。

 ――大学の廊下にいた。

 ――前を歩いていた学生が、階段の手前で落とした本を踏んで転んだ。

 ――慌てて手を伸ばしたところで、急に目の前が元に戻った。

「…………」

 直充はページへ顔を近づける。

 ――気づいたとき、自分は時計を持ったまま椅子に座っていた。

 次の行。

 ――五分ほどして、廊下を通った。

 ――さっき見た学生がいた。

「…………」

 その下の文字は。

 それまでより濃かった。

 ――同じ場所で。

 ――同じ本を落とした。

 ――そして。

 ――同じように転んだ。

「…………」
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