シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 直充は動かなかった。

 日誌の文字だけを見る。

 六月十八日の最後。

 ――偶然だと思う。

 ――そうじゃないと説明がつかない。

 ――でも、あれを私は先に見た。

 ――まだ起きていなかったことを。

「…………」

 白い鞄。

 紙のカップ。

 走ってくる学生。

 ぶつかって。

 飲み物が飛んで。

 女性が転ぶ。

 直充も。

 先に見た。

 そして。

 少し後。

 同じことが起きた。

「…………」

 ページをめくる。

 六月十九日。

 ――昨日のことが気になっている。

 ――時計には触れていない。

 ――触らない方がいい気がする。

「…………」

 直充の指が。

 そこで止まった。

 自分と同じだった。

 あの日から。

 直充も時計へ触れていない。

 何なのか分からないものを。

 もう一度動かそうとは思わなかった。

 次。

 六月二十一日。

 ――あの日、目の前が戻った直後に少し眩暈がした。

 ――ほんの一瞬だったので、そのときは気にしなかった。

 ――時計と関係があるのかは分からない。

「…………」

 直充は目を閉じる。

 あの日。

 針が動いて。

 景色が変わって。

 元へ戻ったあと。

 一瞬。

 視界が揺れた。

 体も僅かに重かった。

 長くは続かなかった。

 だから。

 それも偶然だと思っていた。

「…………」

 直充は最初から。

 時計に関する記述だけを追った。

 倉庫で見つけた古い時計。

 止まった針。

 音だけはする。

 時刻を合わせようとしてリューズを回す。

 すぐには何も起きない。

 少し遅れて針が動く。

 まだ起きていない光景を見る。

 現実へ戻る。

 数分後。

 見たものと同じ出来事が起きる。

 そのあとに残る。

 僅かな眩暈。

「…………」

 一つなら。

 偶然だった。

 二つでも。

 まだそう思えたかもしれない。

 けれど。

 ここまで同じなら。

「…………」

 直充は日誌へ目を落とした。

 六月十八日の一文。

 ――でも、あれを私は先に見た。

 ――まだ起きていなかったことを。

「…………」

『……未来だったのか』

 声にはしなかった。

 唇だけが動いた。

 その言葉が。

 初めて。

 ただの思いつきではなくなった。
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