シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 その次。

 ――前より多くリューズを回したからだろうか。

 ――回した分だけ、遠くを見るのかもしれない。

「…………」

 直充はその一文を、もう一度読んだ。

 回した分だけ、遠く。

「…………」

 ページをめくる。

 次の記録。

 ――どこまで見られるのかは分からない。

「…………」

 直充の目が僅かに細くなる。

 やはり、未来。

 あの時計は未来を見る。

 そして、リューズを回す量で見える未来までの距離が変わる。

「…………」

 直充は無意識に鞄の奥を見る。

 金色の懐中時計。

 今、ここで試せる。

 少し回せば、五分ほど先。

 もっと回せば、さらに先。

「…………」

 手は伸ばさなかった。

 先に最後まで読む。

 ページへ視線を戻すと、次の記録は文字が少し乱れていた。

 ――先を見たあと、頭が痛くなった。

 ――眠い。

 ――昨日はよく寝たはずなのに。

「…………」

 直充の指が止まる。

 次。

 ――長く見るほど、体への負担が大きくなるのかもしれない。

「…………」

 直充はゆっくり息を吐いた。

 能力だけではない。

 代わりに何かを持っていかれる。

 少なくとも、ただ便利なだけのものではない。

「…………」

 次の紙。

 ――もっと先も見られると思う。

 ――でも、試すのは怖い。

 そこで記録は、また少し空いていた。

「…………」

 次の日付。

 ――今日は使わなかった。

 その次。

 ――時計を見ると、使いたくなる。

 ――知ることができるなら、知りたいと思ってしまう。

 ――でも。

 ――知らない方がいい未来もあるのかもしれない。

「…………」

 直充は最後の一文を見る。

 ――未来を知れば、変えることもできるんだろうか。

「…………」

 できる。

 少なくとも、あの日は変わった。

「…………」

 あの日。

 白い鞄の女性。

 見た通りに学生がぶつかり、飲み物が飛んだ。

 けれど、最後だけは違った。

 直充が腕を掴んだから、女性は転ばなかった。

「…………」

 あれは、未来を変えたということなのか。

「…………」

 直充は金色の時計を出そうとして、やめた。

 今、試す理由はない。

 能力があると分かったからといって、使わなければならないわけではない。

 まずは、この紙だ。

「…………」

 直充は抜けていたページを揃え、折り目を戻して日誌に挟んだ。

 それから日誌ごと鞄の奥へ入れ、ファスナーを閉める。

「…………」

 腕時計を見る。

 そろそろ帰るか。

 直充は立ち上がり、机の上を確認した。

 動かした資料と椅子、踏み台も元の場所へ戻す。

「…………」

 最後に時計が入っていた木箱を見てから、扉へ向かった。

 手を掛ける。

 開ける。

「……あ」

「…………」

 扉の向こうに人がいた。

 ふわりとした茶色い髪。

「…………」

「…………」

 梨来だった。
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