シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「直充くん?」

「…………」

「梨来さん」

 二人とも動かない。

 梨来は扉を開けようとしていたらしく、片手がちょうど取っ手へ伸びている。

 直充は出ようとしていた。

 距離が近い。

「…………」

「…………」

 梨来が少しだけ上を見る。

 直充も少しだけ下を見る。

「……近いですね」

「直充くんが急に出てくるから」

「梨来さんが扉の前にいたんでしょう」

「開けようとしてたの」

「俺は出ようとしてました」

「…………」

「…………」

「じゃあ」

 梨来が小さく笑う。

「お互いさまだねぇ」

「そうなります?」

「なるよ」

「…………」

 直充も少しだけ口元を緩めた。

 梨来がそれを見る。

「…………」

「何ですか」

「最近、直充くんよく笑うなぁと思って」

「そうですか?」

「うん」

 梨来が少し嬉しそうに笑った。

「私といるとき」

「…………」

 直充が黙る。

 梨来も言ってから、僅かに目を瞬いた。

「……今の」

「はい」

「ちょっと、恥ずかしいかも」

「…………」

「そういえば」

 梨来が誤魔化すように聞いた。

「直充くん、ここで何してたの?」

「…………」

 ほんの一瞬、直充の意識が鞄へ向いた。

 日誌。

 抜けていたページ。

 未来を見る時計。

「授業で使う資料を取りに来ました」

「授業?」

「はい」

「こんなところの?」

「教授に頼まれて」

「ああ」

 梨来が資料室の中を見る。

「見つかった?」

「はい」

「よかったねぇ」

「梨来さんは?」

「私?」

「ここに何か用ですか」

「…………」

 今度は梨来が、ほんの僅かに止まる。

「事務の仕事」

「ここまで?」

「うん」

「大変ですね」

「そうなの」

 梨来が笑う。

「事務員さんって、いろいろやるんだよ?」

「そうみたいですね」

「もっと労ってくれてもいいよ?」

「いつも仕事してくださいって言ってるでしょう」

「労ってない」

 梨来が頬を膨らませる。

 直充は数秒、梨来を見る。

「今日、何時までですか」

「え? 五時半くらい」

「じゃあ」

 直充が腕時計を見る。

「待ってます」

「え」

「昨日は梨来さんが待ってたでしょう。今日は俺が待ちます」

 梨来が直充を見たまま、動かなくなる。

「梨来さん?」

 梨来の顔がゆっくり緩んでいく。

「嬉しい」

「…………」

 直充が眼鏡の位置を直す。

「それならよかったです」

 梨来が嬉しそうに笑った。
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