シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
「じゃあ、俺は行きます」

「うん」

 直充が梨来の横を通る。

 狭い入口で、直充が少しだけ身体を横へずらすと、梨来も同じ方向へ避けた。

「…………」

「…………」

 今度は逆へ。

 また同じ。

 梨来が吹き出した。

「ふふっ」

「何で同じ方行くんですか」

「直充くんもでしょ?」

「俺は避けてるんです」

「私も避けてるよ」

 梨来が笑いながら一歩下がった。

 そのとき、床に置かれていた古い資料の箱へ梨来の踵が僅かに触れた。

「あ」

 身体が後ろへ傾く。

「梨来さん」

「……っ」

 直充の手がすぐに伸びた。

 梨来の腕を掴み、引く。

 梨来の身体が直充の方へ戻る。

 思ったより強く引かれ、そのまま梨来の額が直充の胸元へ、とん、と当たった。

「…………」

「…………」

 止まる。

 梨来の目の前には直充の服。

 腕には、直充の手。

 すぐ上から声が落ちる。

「大丈夫ですか」

「…………」

「梨来さん?」

「……うん」

 近い。

 近すぎる。

 梨来は、なぜかすぐに離れられなかった。

「足」

「え?」

「捻ってません?」

「あ」

 梨来がようやく顔を上げる。

 すぐそこに直充の顔がある。

「…………」

「…………」

 目が合う。

 直充も止まった。

「…………」

 梨来の胸が、どくんと大きく鳴った。

 任務中、どれだけ人と近づいても、こんなことにはならない。

 直充だと、全然違う。

「梨来さん?」

「近い……」

 直充が止まる。

「あ」

 ようやく直充が身体を離した。

「すみません」

「ううん」

「…………」

「…………」

 二人とも少しだけ黙る。

 梨来は自分の額へ手を当てた。

 痛くない。

 ほとんど。

 なのに、そこだけ妙に熱い。

「…………」

 直充が梨来を見ている。

「何?」

「本当に大丈夫ですか」

「大丈夫」

「ならいいですけど」

 直充の手が梨来の腕から離れる。

「…………」

 離れた場所が、少しだけ寂しい。
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