シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 昨夜、梨来の端末に組織から追加の情報が届いていた。

 探している古い時計。

 その所在はいまだ分かっていない。

 ただ、過去の記録を辿った結果、誠星大学で長く保管されてきた古い資料のどこかに、時計へ繋がるものが残っている可能性がある。

 昔、保管場所として使われていた部屋。

 その一つが、今日の資料室だった。

「…………」

 だから梨来は来た。

 事務員としてではなく、組織のエージェントとして。

「…………」

 そして、そこに直充がいた。

『授業で使う資料を取りに来ました』

『教授に頼まれて』

「…………」

 学生が教授に頼まれて、古い資料を取りに来る。

 それだけのこと。

 ただ、任務で来た場所に直充がいた。

「…………」

 梨来の手がほんの少しだけ止まる。

 嫌だな。

 そう思った。

 任務のことを考えるとき、直充の名前まで一緒に思い出さなければならなくなった。

「…………」

 それが少しだけ不安だった。

 さっきまであんなに近くにいて、また一緒に帰ろうと約束した人が、自分の中で任務とはまったく別の場所にいてほしかった。

「…………」

 梨来は小さく息を吐く。

 エージェントとして、今日ここに直充がいたという事実だけは、覚えておかなければならなかった。
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