先輩の愛に溺れる。
その日の午後。
魔法実技の見学中、事件は起きた。

生徒たちが順番に魔法を披露する中、ひとりの生徒の術式が乱れ、暴走しかけたのだ。
あふれた風の魔力が鋭く飛び散り、近くにいたセレナへ向かう。

「危ない!」

声を上げる暇もなかった。
けれど次の瞬間、セレナの前に光の壁が広がる。

暴走した魔法は、その壁にぶつかって霧のように消えた。

ざわめく教室。
その中心で、片手をかざしていたのはレオネルだった。

「お怪我はありませんか」

王子はすぐにセレナの前にひざをつき、やさしく微笑んだ。

「驚かせてしまいましたね」

「あ、ありがとうございます……」

差し出された手を、とまどいながら取る。
その手はあたたかく、仕草はどこまでも自然で優雅だった。

「あなたのお名前を聞いても」

「セレナです」

「セレナ嬢。お会いできて光栄です」

そう言って、レオネルはセレナの手の甲へそっと口づけるふりをした。

その瞬間だった。

「おい」

低く冷えた声が、空気を切り裂く。

振り向かなくてもわかった。
ルシアンだ。

教室の入り口に立つ彼は、静かな顔をしているのに、青い瞳だけがまるで氷みたいに冷たい。

「人の恋人に気安く触れないでもらえますか、殿下」

教室中が息をのむ。
セレナの心臓も跳ね上がった。

ルシアンはまっすぐ歩いてくると、セレナの手を自分のほうへ引き寄せた。
その動きは乱暴ではないのに、はっきりと独占の色が見える。
< 14 / 35 >

この作品をシェア

pagetop