極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
物知りで、知識と経験が豊富で、私の知らないことをなんでも話してくれた。たまにしか会えなくても、会うと時間はあっという間に溶けるように過ぎ去った。
創史さんを異性として意識しだしたのは、ちょうどこの頃からだったと思う。
だから、初恋である創史さんと結婚できたのは私にとってこの上ない喜び。婚約が決まったとき、長年募らせた想いが成就して天にも昇るようだった。
創史さんも私と一緒になることを望んでくれ、結婚式では『生涯幸せを誓う』と言ってくれた。
決められていた結婚だったとしても、そこにお互いの気持ちは確かに存在していた。あのときは、間違いなく……。
桜庭家の没落、そして父の死を経てなんの後ろ盾もなくなった私。
彼が望んでくれるならと奮起したけれど、黒川家の義両親や義妹の態度は明らかだった。それでも、創史さんと一緒にいるためならと積極的に仲良くしようと努めていたけれど、一向に関係は改善せず。
いつしか創史さんも仕事に忙しくなり、正式に渡米が決定すると婚約者とはいえ話す時間も限られるようになっていった。
「でも、結果的に失敗になってしまったって、私は思ってる。あのとき、結婚は取りやめにしますって、本当は私のほうから言わなくちゃいけなかったんだって。創史さんと一緒になれる喜びが先行しちゃって、後のことをちゃんと考えられていなかったんだって……」
「美莉……」
せっかくのランチの席が私の話のせいでどんよりとしてしまい、ひまりの心配そうな顔を目にハッと我に返る。
「ごめん、こんな話ばっかりになっちゃって。せっかくひまりと会える貴重な時間なのにね」
「いいんだよ。私は、美莉のそういう話を聞きに来てるんだから。窮屈な黒川財閥の中で言いたいことも言えないだろうし。ね?」
ひまりの優しさに心打たれながら、「ありがとう」と自然と笑みが浮かぶ。
胸の内をこぼせる場所があることに感謝し、アップルパイを口に運んだ。