極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
ひまりと別れて、どこにも立ち寄らず家路につく。
本来なら迎えの車を呼んで帰宅するけれど、最近は自らの足で行動することが格段に増えている。
今日はタクシーを拾って帰ることにした。
白金の高台、高い石塀と黒いアイアンゲートに囲まれているその門は、訪れる者を選ぶように沈黙していた。
正門には、黒川家の家紋。その前でタクシーを降車し、歩行者専用門でカードキーを使って敷地内に入る。
黒い鉄のゲートの向こうに続く道は、緩やかに弧を描き、邸宅の姿を簡単には見せない。
車に乗って向かえば玄関まで二分足らずで到着するが、徒歩ならば五分はかかる。
歩みを進めるたびに街の気配は遠ざかり、代わりに張り詰めた静寂が満ちていく。
──ここは、外の世界とは違う。限られた人間しか踏み込めない黒川の領域だ。
白金の本邸は、本館と別館からなる広大な邸宅である。
本館は黒川家の中心となる建物で、来客を迎える応接間や大広間など対外的な用とで使われる部屋が多い。本館から続く棟の東居住区には創史さんの書斎、夫婦の寝室、私の部屋が設けられている。
一方、お祖父様をはじめ、義両親、義妹はそれぞれ別館に居を構えており、家族でありながら生活空間は分けられている。
本館までのアプローチをゆっくりと歩いていると、後方から黒塗りの高級セダンが私の横を通り過ぎていく。
その車のナンバーを見て、小さく息をついた。無意識に歩く速度が更にゆっくりになる。
それでもやがて淡いクリーム色の外観をした本館は見えてくる。大正期に建てられた洋館は、夜になると間接照明で照らされ美術館のように見える。
初めてこの本館を訪れたとき、その空気感には幼いながら緊張を覚えた。
両開きの黒い扉の前には、私の到着を見越していたように使用人が待ち構えている。