極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
「お帰りなさいませ、美莉様」
「ただいま」
重い扉が開かれ、中へと入っていく。
磨かれた大理石の床が迎え入れる玄関ホールは、吹き抜けで巨大なシャンデリアが下がる。
今はもうこの光景にもすっかり慣れたけれど、子どもの頃は城にでも訪れた気分になってテンションが上がった。
しんと静まり返った玄関ホールには、私の足音がコツコツと響く。
「また来るわ」
奥のダイニングの扉が開いたと思ったら、同時に声が廊下に響き渡る。
桜色に近いピンクベージュの膝丈ワンピースは、柔らかそうなシフォン素材で袖はパフスリーブ。ウエストには細リボンがある。透け感のあるアイボリーのショートカーディガンを羽織るその姿は今日も華やか。
創史さんのふたつ年下の妹である紫乃さんは、私の姿を目に「あら」と静かな廊下で口を開いた。
「こんにちは」
足を止め、相手より先に頭を下げる。
私を真っ直ぐに見て距離を縮めてきた紫乃さんは、私の少し前で足を止めた。
「美莉さん、今日はいったいどちらまでお出かけ?」
「学生時代の友人と、ランチの約束がありまして」
質問に答えると、紫乃さんは「ふうん」と私の姿を上から下まで眺める。
「黒川家の次期当主の妻が、ふらふらと遊び歩いていていいのかしら」
門からアプローチを歩いているとき、横を紫乃さんを乗せた車が通り過ぎていったのを見て、きっとまたなにか言われてしまうだろうとは覚悟していた。
出かけて帰ってきたところに出くわすと、必ずと言っていいほど外出先を訊かれる。