極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~


「あら、聞いてないの? あなたには、帰国の連絡すらきていないのね」

 鼓動が嫌な音を立てて高鳴っていく。返す言葉が出てこないまま、紫乃さんの顔を見つめることしかできない。

 彼女はそんな私を嘲笑うようにくすくすと口元を押さえた。

「お兄様も、ニューヨークにいたこの一年で考え直したのかもしれないわね。だって、普通なら一番に妻へ連絡を入れるわよね?」

 頭を固いなにかで殴打されたような衝撃を受け、更に言葉が見つからなくなる。

「人伝に聞いた話だけど、お兄様、向こうで一から人脈づくりをしているそうよ」

 呆然としている私にお構いなく、紫乃さんはご機嫌に言葉を並べる。

「結婚なんてしている場合じゃなかったってよく言っているらしいわ」

 紫乃さんは最後までふふっと笑い、「じゃあ」と私へ背を向けた。

 開いてもらった玄関を出ていく後ろ姿を見届け、しばらくその場に佇む。やっとの思いで廊下を進み、居住区である東棟入り口へと向かった。

「美莉様、お帰りなさいませ」

 東棟入り口に差し掛かると、どこからともなく現れた使用人が私の室内履きを用意する。お礼を告げて履き替えると、すぐに履いていたパンプスが回収されていく。

「お夕食の準備はいかがいたしましょうか」

「今日は、ランチでたくさん食べてきたの。夕食はあまり食べられないと思うから」

「かしこまりました。そのように伝えておきます」

 去っていく使用人を見送り、そのまま真っ直ぐ自室へと向かう。

 この家で私に与えられた部屋は、この東棟居住区の二階、奥の部屋。元々は使われておらず、物置きとなっていたあまり部屋だ。

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