極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
「……随分と華やかなのね」
静かな玄関ホールに足音が近づいてきたと思えば、今朝から本館を出入りしている紫乃さんが立っていた。
装花に目を遣る姿に「はい」と答える。
「一年ぶりのお戻りですから」
紫乃さんはふっと笑みをこぼす。
「そう。お兄様、こういう〝演出〟はあまりお好きじゃなかった気がしたけれど」
飾られた装花に近づき、芍薬の花に触れる。しなやかに伸びるドウダンツツジの枝を引っ張ってみせた。
「空港へはお迎えに行かれなかったのね」
「はい。本館の受け入れ準備がありましたので」
「そう……。冴華さんなら、きっと空港まで行っていたでしょうね。一年ぶりなんだから」
紫乃さんの口からさらりと出てきた名前に胸がチクリと痛む。
一条冴華さんは、私と同じく創史さんを幼少期から知る一条家の長女で、噂によると創史さんの婚約者候補に挙がっていたと聞いている。
紫乃さんは冴華さんをえらく気に入っていて、よくこうして冴華さんを引き合いに出してくる。
紫乃さんに冴華さんと比較される発言をされると、微笑んでやり過ごすしかなくなる。
紫乃さんが私ではなく冴華さんを黒川家に迎えたかったのは言うまでもない。