極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~


 料理長との最終確認を終えると、重大な件を思い出し、慌てて東棟居住区に向かう。

 三階にある創史さんの書斎に入り、部屋の香りを確認した。

「大丈夫……いい感じね」

 数日前、調香師に依頼をし、創史さんの書斎の香りを少し変えてみた。

 日々清掃には入ってもらっているけれど、しばらく使っていなかったこともあり、帰国した創史さんがホッとするような香りをお願いしたのだ。

 しつこすぎないホワイトムスクの香りは仕事の邪魔にもならない。

 滞りなく帰国を迎える準備も整い、あとは創史さんの到着を待つだけ。

 書斎を出ていこうとしたとき、勝手に扉が開いた。

「ここにいたのね。もうすぐお兄様が到着するわよ」

「あ、はい」

 姿を見せたのは、さっき玄関ホールで顔を合わせた紫乃さん。

 書斎に入ってくると、部屋の中をぐるりと見回しながら香りを嗅ぐような様子を見せる。

「お兄様の書斎、香り変えたの?」

「はい。長期で空けていたので、少しだけ。調香師に依頼しました」

 返答を聞いて、紫乃さんはまたくんくんと鼻を鳴らす。

「……以前のもの、お兄様のお気に入りだったのに」

 実の妹である紫乃さんにそう言われてしまうと、勝手なことをしてしまったと急激に自信がなくなる。

「すみま──」と謝りの言葉が出かけたとき、少し前に紫乃さんが入ってきた書斎の扉がノックなしに再び開かれた。

< 20 / 40 >

この作品をシェア

pagetop